桜の木

 三十年経つのに、大きさが変わっていない桜の木。

なんとなくだけど、気になった。

みづきさんも同じ気持ちなのか、さっきからひとこともしゃべらない。

「みづきさん、桜の木、見に行きますか?」

しばらく沈黙して、みづきさんは言った。

『いや、今日はもういい。遅くなるだろうし』

言われて、時計を見て驚いた。

いつの間にか、夕方近くになっている。

昼食だの水分補給は、行なってたけれど想像以上に時間が経っていたようだ。

「今日は、帰りますか?」

『ああ。……もし、可能なら明日もここに来てみたいんだが、いいか?』

「もちろんですよ。あ、でも明日は原チャリ使っていいですか?二日連チャンで山歩きは、ちょっと」

『いい若いもんが……と言いたいところだが、わたしが歩くわけではないからな。お前に任せるよ。バスが使えたら、よかったがな』

そう。

ここのバス停とウチの近くのバス停は路線が違うので、バスを使おうとするとメチャクチャ遠回りになるのだ。

 

 翌日、装備を整えて昨日の場所に原チャリで向かった。

桜が生えている空き地に、邪魔にならないように原チャリを停めて施錠する。

今は緑の葉っぱが茂っている木を見上げた。

「みづきさんが覚えているのと同じですか?」

『よく似ているんだが、こっちの方が少し小さい気がする』

小さい……木が縮むはずはないから、別の木ってことだよね。

「ここって、前から空き地だったんですか?」

『ああ。ずっと前から空き地のままだ。以前は家が建ってたこともあったらしいが、わたしが記憶する限りは空き地だった』

「じゃあ……中に入っても、怒られないですよね?」

『たぶん、大丈夫と思うが』

 

 私は、そっと空地に足を踏み入れた。

木の幹に両手をかけて押してみる。

当然だけど、びくともしない。

思いきりゆさぶってみたかったけれど、木がかわいそうだからやめておいた。

「この木が、なにか憶えててくれたらよかったのにな。なんてね」

『おそらく代替わりした木だろうから、それは無理だろう。憶えていたとしても、木の声を訊く術もないし』

「ですよね」

『そうだ。木の根元を見てくれないか?』

「ねもと、ですか?」

『ああ。元の木がどのあたりに生えていたか。切り株か何か、残ってないか?』

みづきさんに言われて、木の根元に目をやる。

目的のものは、すぐに見つかった。

新しい木よりも少しブロック塀よりのところに切り株が残っていた。

「前は、ここに生えていたんですね」

『そのようだな。入口からみるとほとんど同じ場所に見えたが』

しゃがみこんで切り株を見ていると、後ろから声をかけられた。

「どうか、されましたか?」

振り向くと、そこには一人の女性が立っていた。

 

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