ある日、ツかれて、さまよって

奈那美

ハイキング

 あの日、私は気晴らしにハイキングに出かけていた。

ハイキングというほど洒落たものではないかな。

ほぼレベルだもの。

はっきり言うと、裏山みたいな場所。

昔使ってた山道は、ヘビが出てあぶないからと封鎖されていて(無理に通れば通れる)、今では頂上まで車で行けるように舗装道路が整備されている。

その路肩をテクテク歩いて登るのだ。

 

 ただ、散歩と違うのは登った道を降りてくるIターンルートはとらず、反対側に降りて山の外周をぐるっと回って帰るルートを取るつもりな点。

正直、初めて反対側に降りるから、おおよその見当はついていても、どのあたりに出るのかまったくわからない。

いや、そりゃ、ナビアプリで調べたらすぐにわかるんだろうけど、それじゃあ暇つぶしハイキングの意味がなくなちゃう。

 

 暇つぶしハイキング。

あ~あ、考えたら腹がたってきた。

バイト、クビになりさえしなければ、ハイキングなんてしなくてよかったのに。

だけど、ずっと家にいると、母さんがガミガミうるさいんだもん。

仕事もしてない、バイトもしてない。

そのことに文句をつけられるのなら、仕方がないし納得もするけど。

 

 「いい若いもんが家でごろごろとか、不健康。ジムに行くわよ」だとか「ホットヨガ行くわよ!あんた最近太ったでしょ?!」だとか。

今日も太極拳につき合わされそうになったから「ハイキング行ってくる」って、家をでてきたんだよね。

スマホと財布はバッグに入れてきたし、さっきお茶も買った。

オヤツ持ってくるの忘れたけど、降りたとこの近くにコンビニくらいあるでしょ。

そう思って、歩き出したのだ。

 

 歩き出してしばらくして、後悔しだした。

帽子をもってくるのを忘れたのだ。

陽射しは照りつけるし、風はほとんど吹いてない。

というか、帽子もだけどタオルもハンカチも持ってないじゃない。

(うわあ。最悪のパターンだわ)

思いつきで、用意もそこそこに家を飛び出してきた自分の無計画ぶり、我ながら頭にくるというか情けないというか。

 

 「いまだに成長してないなんて小学生以下だよ?私」

ひとり言が口をついて出る。

それでも、忘れ物を取りに家になんて帰るもんか。

(まあ、なんとかなるでしょ)

山肌とは反対側は、斜面に木が生えている場所も多い。

崖になっている部分もあるけれど、ガードレールもあるから、落ちる心配はない。

日かげが多そうな路肩側を選んで、私は登り始めた。

 

それが、そもそものミスだった。



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