落下

 私は、ただ登り続けた。

不思議と忘れなかったワイヤレスホンで、スマホのプレイリストの曲を聴きながら。

二千をゆうに超える曲をシャッフルモードで聴いていく。

お気に入りの曲たちのおかげで、足取りも軽くなる。

J-POPにV系ロック、ヘヴィメタに懐メロ。

洋楽のポップスにロック、いくら雑食で何でも聴くとはいえ色々入れすぎちゃった。

そろそろ、曲の入れ替えしなくちゃな。

あのアルバムは聴き飽きたし、ひさしぶりにあの人の曲をいれて。

あの曲もよかったし、CMのあれはなんという曲だったかな?

そんなことを考えながら歩いていたからか、それとも音量が大きかったのか。

その車が私のそばを通過するまで、近づいてくる走行音に全然、気がつかなかった。

 

 舗装してある道路とはいっても、一車線しかない狭い道だ。

普通だったら、歩行者がいるなら徐行するだろうし、少なくとも制限速度そこそこで走るはず。

それなのにその車は、信じられないほどの猛スピードで下から走ってきて、私を抜き去っていった。

ぶつかりこそしなかったものの、ほんとにすれすれを通過していった。

急に車が通過して驚いたのと抜き去られる際の風圧で、私はよろけて転びそうになった。

 

 (あ!やば!転ぶ!!)

とっさに左手でガードレールにつかまろうとした。

でも、その手はが空を切った。

よりによってガードレールが2メートルほど切れてる場所!

そのまま私の身体は、何もない空間へと投げだされた。

 

 (うそ!まじで!!)

あまりに急で、びっくりして。

私は声も出せないまま、落ちていった。

ドラマやマンガで「きゃあああ」って落ちていくシーンがあるけど、あれってウソだよねなんて考えが頭をよぎった。

驚きすぎると、声なんて出ない。

 

 一瞬のような、永遠のような。

顔は上を向いているから落ちていく先は、見えない。

どこまで落ちるのか、落ちる先がどんなところなのか、まったくわからない。

見えているのは、私が転げ落ちた路肩だけ。

それもどんどん遠ざかっていく。

 

 (落ちたら、やっぱり死んじゃうのかな?ケガですむのかな?痛くないならいいなってまだ死にたくないし!ていうか、なんで落ちてるの?)

頭の中がぐちゃぐちゃで、パニックになった私の身体を衝撃が襲い、目の前が真っ暗になった。

 

*************** 

 

 なにか、聞こえたような気がして、目を開いた。

ぼやけてて、よく見えない。

だんだんとはっきりしてきた視線の先にあったのは、雲が浮かんだ青い空だった。

どうやら、どこかに横になっているらしい。

 

『やっと起きたか』


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