13 お姉ちゃんと紡ぐ
お姉ちゃんの涙が収まったのをみて、家に帰ろうと、二人で手をつなぎながら歩き出した。
「……そうだ。ねえお姉ちゃん、お姉ちゃんの新しい名前を考えようよ」
桜に囲われた道を歩きながら、私はお姉ちゃんに提案した。
チトセという名前は、前世の私のお姉ちゃんの名前だから、今の私が呼ぶのは少しはばかられると思った。
それにそのままヤチの名前を使うわけもいかないし、何より昔の自分の名前を使われるのは少しやきもきする。
「あ、新しい名前? 別にいらぬ。ヤチという名前があるじゃろ」
「それは前世の私の名前でしょ? 今目の前に私がいるのに、前世の私しか見てくれないの?」
「うっ……そういうわけじゃ……」
お姉ちゃんは私から目をそらす。
そうはさせまいと私は動いた目線の方に移動して、目を合わせる。
「それに、お姉ちゃんは今ヤチのお姉ちゃんじゃなくて、『琴葉』のお姉ちゃんでしょ? 妹が新しい名前になったんだから、お姉ちゃんも新しい名前になった方がおそろいでしょ?」
「それは、そうじゃが……ああもう、そんな目で見るでない! わかった! 新しい名前にすればいいのじゃろう!?」
私が少しうるんだ目で見つめると、お姉ちゃんは観念して折れた。
「よろしい。……とはいっても、どんな名前がいいかな……」
私は考える。
名前にも言霊ってやどるんだよね。チトセという名前に言霊がやどったように。
それなら、いい言霊がやどった名前がいいな。
言霊、言霊かぁ……。
言霊って、「紡いだ言葉にやどる力」って、お姉ちゃん言ってたよね。
紡いだ言葉、紡ぐ……。
「あっ!」
いい名前を思いついて、手をポンと叩く。
私は勢いよく隣にいるお姉ちゃんを振り向いて、その名を告げる。
「――ツムギ……ツムギはどう!?」
ツムギ……紡ぐという言葉から取った名前。
千年の思いも、私たち姉妹の絆も、つないで、織り合わせてくれる名前。
われながらいい名前だと思った。
「ツムギ……なあ、琴葉。ツムギお姉ちゃんと、言ってはくれぬか?」
私はぽかんとした。
どうしたんだろう。言うだけでいいなら、言うけど。
私はこくりとうなずいて、その言葉を口に出す。
「――ツムギお姉ちゃん」
そういうと、一瞬静かになったあと、お姉ちゃんは顔を上げて、私にほほえんだ。
「この名は……いいものじゃな……!」
「それじゃあ……!」
「ああ。今日からわらわの名前は『ツムギ』じゃ」
うれしくって、もう一度お姉ちゃんに抱きつく。
自分で考えた名前がつくのって、こんなにうれしいことなんだ……!
私はからだをはなすと両手をお姉ちゃんとつないで、目を合わせる。
「うん! それじゃあ、これから……」
これからよろしくね、と言いかけて止まる。
お姉ちゃんは、前世とはいえ、私のことを千年も思い続けてくれてたんだ。
だから。
「……ううん、これからもよろしくね! ツムギお姉ちゃん!」
「琴葉……うむ、もちろんじゃ!」
桜の花びらが舞い上がる、春の道で。
私たち二人は、新しい姉妹になった。
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