船長「クイン」
「誰だ」
鉄製の扉の向こう側から、低い女性の声が聞こえる。その声色には、微妙に緊張が含まれていた。
「ここを開けてくれ。船長に用がある」
セコンドが淡々とした様子で声をかけるも、扉は開く気配を見せない。
「何者だ。ここの船員ではないな」
「惑星管理局の者だ。船長に用がある」
「…天下の惑星管理局サマが、こんな客船に?」
せせら笑う声が聞こえたと思うと、不意に扉が素早く開かれた。
操縦室の中から女性が飛び出し、目にも止まらぬ速さで腰元から拳銃を抜く。
対人戦に慣れているセコンドでも見切ることは叶わず、額に冷たい感触を受けた。
セコンドは両手を上げて見せ、あくまで冷静を保って言う。
「敵ではない。船長に会わせてはくれないか」
しかし、女性は鋭い目を更に釣り上げ、安全装置をカチリと鳴らした。
「惑星管理局が何の用だ」
「ここに01という鉱石があるだろう。それを渡して貰うために来た」
セコンドは女性に気づかれないよう静かに、靴に仕込まれた毒針の先端を出す。
「……証明書は」
「内ポケットの中だ」
女性は緊張を解かずに、セコンドの制服から身分証を取り出してまじまじと見ると、ようやく拳銃を腰にしまった。
「一旦信用しよう。数歩下がれ」
セコンドが言われるまま下がると、女性は後ろ手に鉄製の扉を閉め、廊下へと出る。
女性は制帽を傾けて被っていた。その鋭い目と同じ色をした黒い髪は雑に外ハネしており、腰元にまで達している。
腰元に拳銃や方位磁針、ペンライトなどを下げており、その身につけ方は独特なものであった。
「私が船長のクインだ。お前は?」
「惑星管理局、特殊捜査部隊隊長、セコンドだ。先程も言った通り、01という鉱石を探している」
クインと名乗った女性はセコンドに身分証を返すと、腕を組みながら言った。
「01とやらは聞いたことがないな。それを探してどうするつもりだ?」
「使用用途については国家機密に触れることになる」
「……そうかよ。で、その01とやらはここにあると言うのか」
「レーダーの探索の結果、ここに強い反応を示した。ここにあるはずだが」
「ふゥん……。01とやらは知らないが、宝物庫に数個の宝石が保管されているのは知っている」
「宝石の名称は分かるか」
「管理データがあるはずだ。……探すのは結構だが、宝物庫にはお客の貴重品も保管されている。あまり漁らないで欲しいのだが」
「国家の命運がかかっている。操作に加減はできない」
「ハ。お得意の”祖国の御命令”というやつか。イイぜ、お好きにしてくれ。だが、お客に手を出せば、私が処分を下すことになっているからな」
クインは苛立ちを含めた乾いた笑いを浮かべ、荒々しい手つきで手招きをする。
「惑星管理局サマの捜査には、協力するのが義務デスから、私が直々にゴ案内シマスよ」
セコンドは無表情につとめ、クインの早い足について行く。
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