海の女

 ここは客からは見えない通路なんだな、とセコンドは思った。


 けたたましいエンジン音と飾り気のない壁に床、狭い通路。整理整頓はされているものの、ところどころにこびりついているシミがそれを語っている。


 どうやら船員用の通路らしい。


 セコンドは目の前を歩くクインに、この客船について聞いた。


「この船は透明化を搭載しているらしいな」


 クインは振り返ることもせずに言った。


「海には危険が付きものだ。海賊共もうろついている」


「しかし、普通の客船に透明化など、聞いたことがないが」


「知ったことか。私は船長だが、この船を管理しているのはまた別の者だ。そいつに聞け」


「その者の名前は?」


「キングス」


 セコンドはデジタルのメモ帳をポケットから取り出し、「キングス、管理人? 後に調査」と入力した。


 クインは手短に答え、自分から何かを話すことはしない。


 彼女が歩く度に、腰にかけているベルトポーチから、カチャカチャと音が鳴っていた。


 拳銃が二丁。リボルバーとオートマチックの二つだ。先ほど向けてきたのはオートマチックの方であるから、リボルバーは予備なのだろう。


 そして中から見え隠れしているのはペンライトと方位磁針、折り畳み式ナイフのようだ。その奥にも色々と入っているらしい。


 ふと、セコンドの横を1人の船員がすれ違った。


 船員の腰にあるポーチは、クインと同じ身に着け方になっており、一般的には見ないタイプである。


 セコンドはクインに向かって言う。


「君は海軍なのか」


 クインは立ち止まった。そしてセコンドの方に振り返り、警戒を露わにした鋭い目を向ける。


「だったらなんだって言うんだ」


 彼女は舌打ちをし、分かりやすく悪態をついた。イライラとした感情が露骨になり、セコンドを侮蔑しているようであった。


「聞いただけだ。別段、君にやらせることは何もない」


 セコンドはそれに気づきながらも、あくまで機械的に話す。


「そうかよ。だが残念だったな、私は”元”海軍だ。今は一般民衆だから、お前の下には就かんぞ」


 クインは冷めた笑みを見せ、再び早い歩みを進めた。

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