職員準備室
「まったく、二番手って本当に嫌なヤツ! 僕は約束したんだよ、次の任務には同行するってさ!」
惑星管理局本部、職員準備室で任務用の制服に袖を通すココノは、隣で着替える同僚、ムツにそう言い放った。ミディアムヘアを金髪に染めたココノとは違い、ムツは長い黒髪を三つ編みにしている。
「そうねぇ、まあそれは隊長が悪いかもねぇ」
ムツはいつもの柔らかい口調で相槌を打つ。女性らしい穏やかな性格の彼女は、特別捜査部隊にしては珍しい非戦闘員だった。荒事が苦手な彼女は、仕事仲間との争いごとを極端に嫌がるきらいがある。温和なその性格が、傲慢なココノの性格と合っていた。
「でも、もういいもん。さっきクライシス局長に許可をもらってきちゃったからさ。今から行ってやるんだ、アイツのとこ」
「あらぁ、そうなの。ココノは働き者ねぇ」
傍から見れば親子のようにも見えるその二人であるが、どちらも数々の死地を潜り抜けてきた優秀な職員である。どこか勘の良いところがある両名は、セコンドが駆り出された任務について、僅かな違和感を持っていた。
「……ねえ、ムツはさ、ミライ号って聞いたことある?」
「いいえ」
「じゃあ……マツ、とウメは?」
「今回衝突しそうになっている惑星よね。……まあ知っているけど……」
「けど?」
「ううん。なんでもないわ」
ムツはすぐに着替えを終え、手荷物を片付け始める。情報を取り扱う業務を中心に行っている故に、彼女の荷物はメモリーや端末が多かった。
「ココノ、気を付けるのよ。隊長ともあまり喧嘩しないようにね」
「それはどうかなぁ」
「……まあ、こっちからもいろいろとデータを送ることになると思うけどね。報告はちゃんとしてね」
ココノは気の抜けたような返事をし、手早く準備を進める。ロッカーに衣服をしまって、制服の装備を整えていた。
「ねえ、ココノ」
不意に、ムツが背後から声をかける。ココノは振り返り、ムツの方を見た。ムツはココノに背を向けており、その表情は見えない。
「本当に気を付けてね」
その一言を残して、彼女は職員準備室を足早に出ていった。
客船ミライ号 かえさん小説堂 @kaesan-kamosirenai
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