未来
「謎……?」
セコンドは訪ねる。男のテレビは所々にノイズが入り、チカチカと時々点滅した。人間の体には不釣り合いな輪郭がところどころ破損している。見たところ、画面は何世代か前のものらしい。
キングスはセコンドの突然の訪問にも動揺することなく、落ち着いた態度を保っていた。彼はセコンドにソファの席を勧めると、自身も向かい合った席につく。
テレビ画面は語った。
”ミライ号は解明していないことが多すぎるのです。製造日時も、型番も分かっていない。本来ならばもう廃棄されるべき船だったのです”
セコンドはキングスのテレビ頭を見、怪訝そうに顔をしかめた。
「では、何故この船は運航している」
”もう手段を選んでいられる状況じゃありませんでしたから。あなた方なら分かっているでしょう?”
あなた方の責任なのだから、とでも言いたいのだろうか。セコンドは目の前のテレビ画面の奥底を想像し、あくまで機械的に口をつぐんだ。
”ですが幸いにも、この船の操縦の仕方と、年代だけは分かっていました。とても古い機体でしたよ。何せ、二度目のビッグバンの直後でしたから”
「……そんな機体に透明化が搭載できるとは思えない」
二度目のビッグバンは、今から約4世紀前に起こった宇宙爆発であった。その不可解な現象が、宇宙の均衡を崩し、今の不安定な世界を形成させた原因なのである。
だがそんな事件は、もはや歴史書の上でしか語られない出来事であった。人も文化も圧倒的に違うその時代で、今の最先端技術が搭載されているとは、とても考えられないことである。
ところが、キングスは首を振った。
”そう思われるのはごもっともです。しかし、これに関してはハッキリとしています。ミライ号の過去の記録が語っていますから”
彼はそう言うと、音もなく立ち上がり、部屋の壁にかかったガラス戸の戸棚へと向かった。
懐から小さな鍵を取り出して戸棚に挿すと、錆びた音を鳴らしてガラス戸が開く。耳を覆いたくなるような金属音を立てながらキングスが取り出したのは、何かの書類と思われるものだった。
分厚く、糸でまとめられたそれは黄色く焼けてしまっている。長い間放置され続けていたのか、紙の表面がざらざらと音を立てた。
キングスはそれをセコンドに手渡すと、再び電子音を鳴らす。
”それは約400年前の記録です。搭乗者の名前を見てください”
セコンドは紙に記載された客の名前を追った。
まだ苗字があった頃のものらしく、種族名を書く欄の代わりに、名前表記のマス目が二つ存在している。しかも、ところどころに名前に漢字が使われていた。
セコンドは物珍しくそれを眺めている。手早くページをめくるが、その文字をなぞる視線が止まったのは、5ページ目の時だった。
”見つけましたか”
「……J兄弟が……」
キングスは頷く。
”それは私が管理している記録の中で最も古いものです”
「ならば話が変わる。彼らに関わる事は惑星管理局の管轄だ。J兄弟に関するほかの資料は?」
”いえ、それだけです。彼らがただの客として乗っただけなのか、それとも何かを隠したのか、それすらも分かりません”
J兄弟と言って、その名を知らない者はいない。
特に惑星管理局に勤務するセコンドには聞き慣れた名前だった。
今から400年前に二度目のビッグバンが起こり、宇宙全体の均衡が壊れたとき、世間にその名前を現したのが彼らである。
彼らは天才と呼ばれていた。圧倒的な科学力を使って、滅亡へと歩く人類を止めた張本人なのである。
惑星管理局でも、J兄弟の発明品がいくつも使われている。何より、セコンドの現在を作っているのも、J兄弟の恩恵があるからだった。
「……ここに01がある可能性が高くなった」
セコンドは呟いた。
「ミライ号をくまなく捜査させてもらう。私が聞いたことには、嘘偽りなく答えるように」
はるか上空の二つの惑星は、未だに接近を続けている。
二度目のビッグバンによる影響は、天才の力をもってしても抑えることができなかったのだ。
「……ところで」
セコンドは黄ばんだ紙束を机の上に置いて言った。
「この船は一体、どこに向かっているんだ」
キングスは答えなかった。
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