透明

 白波を引きながら、セコンドは水上バイクの上で茶色い髪をなびかせている。


 ハンドルの間に建てられたモニターが示す赤色の線に沿って海上を走っているが、一向に01があるという場所が見えずにいた。


 かれこれ走り続けて数分間。支配の島は背後から見えなくなっている。


 セコンドは地図を入念に確認しながら、示された場所に向かってバイクを走らせ続けていた。


「……未だ対象ナシ」


 そんな声も、バイクのエンジン音にかき消されてしまう。



 しばらくの間、何もない青色を眺めていると、突然バイクが「ピピッ」という音を発した。


 それと同時に、画面の地図の上に警告信号が浮かび上がり、エンジンが停止する。


「障害物を感知……。眼前に対象物は確認できない」


 この水上バイクの安全機能が作動したようであった。バイクが障害物に近づきすぎると自動的に停止する機能である。


 しかし、セコンドの目の前には障害物など見られない。はるか遠くの水平線がくっきりと視認できるだけであった。


「故障の可能性有り」


 そう思いながらも、セコンドはエンジンをかけ直して5メートルほど後退した。


 警告信号が画面から消える。


「原因不明……」


 セコンドは試しに、ポケットの中から使用済み乾電池を取り出し、目の前の虚空に向かって投げてみた。


 本来ならば乾電池は放物線を描き、ポチャンと音を立てて水しぶきを上げるはずである。


 しかしながら、セコンドの手から離れた乾電池はコオンッという音を立てて虚空で跳ね返り、ボチャリと落ちた。


 そして、乾電池が当たった衝撃によるものか、波が発生したように空間が揺れ、巨大な船の形を成したのであった。船はゆっくりと海の上を進んでおり、東へ向かっている。


「透明化の船……」


 セコンドは納得したように頷き、船の後ろ側へとバイクを回した。

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