2階

 彼の持つ電子メモ帳とスマートフォンは連動している。どちらかを操作すれば、自動的にその操作がもう一方にも反映されるというものだ。


 盗まれた電子メモ帳は、スマートフォンの方から操作すれば削除できる。だから機密情報が漏洩する恐れは、幸いにも無かった。


 だが問題は、身分証明書である。あれはどうやっても代えが効かない。局員の情報として売買されでもしたら、惑星管理局の沽券に関わるものだった。


 (……それに、私が失態を晒すことなど許されない)


 セコンドは最年少で特殊捜査部隊隊長に指名された。彼を指名したのは、他でもない、局長のクライシスである。


 周囲の反対を押し切って指名に至ったその役割は、セコンドのことを信頼して指名したクライシスの名に響く。


 ここでセコンドがスリにあって情報を漏洩されたなどという失態を晒せば、クライシスはおろか、惑星管理局の名に傷がつくことになる。


 それだけは何としても防がなければならなかった。


 セコンドは螺旋階段を駆け下りながら、あの子供の行動を予測する。


 (盗まれた時は3階にいた。そこから下に降りたということは、必然的に捜査区域は1階と2階のどちらかになる。胸部の認知センサーを子供に設定し、両足の加速度を上昇させれば、遂行にかかる時間はおよそ30分というところだろうか)


 簡易的に計算をしている間に、セコンドは2階のフロアへと到着していた。


 2階は1階より比較的広く、明るかった。客の身なりも1階よりも綺麗になっており、どうやら客室の階数によって貧富が分かれているようだ。

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