迂闊
通話を終えると同時に、一件のメールが着信された。
発信元は惑星管理局本部である。セコンドは慣れた手つきでメールを開いた。
「……」
セコンドはその文章を目で追い、眉をひそめた。内容は、先ほど電話で怒鳴っていた部下が、ミライ号へ向かったというものだ。しかし上はそれを咎めず、挙句の果てにはセコンドにその面倒を見るよう指示しているらしい。
彼は先ほどのけたたましい声が間近に来るのだと思うと、辟易とせずにはいられなかった。
(あれが来る前に片づけなければ)
そう思ってセコンドが文章を追っていくと、下の方に追記がされているのに気が付いた。
“01の確保を迅速にするように。また、ミライ号についての情報は逐一報告をすること。それが01に関わることではなくても同様である。……クライシス”
彼はその名を見た途端、どこか胸がざわめくような、嫌な予感を覚えた。
クライシスは惑星管理局の局長である。セコンドの直属の上司であるが、彼女がセコンドの捜査に口を出すことは滅多になかった。頭脳明晰で冷静沈着な彼女は、セコンドを含めた局員すべての憧れの姿でもあった。
そんな彼女からの直々の指示である。しかも、その指示は今回の任務に関連がないように見える。セコンドはその真意を図ることができなかった。
早々に考えることをやめ、返信の文章を手早く入力する。今までに入手した情報も添付しておいた。
(01の入手が最重要捜査対象だが……ミライ号の情報も必要なのか。確かに、ここはJ兄弟が関わった貴重な資料としての一面もあるが、本部はどうしてそのことを知っている?)
セコンドが送信ボタンをタップした直後、彼は視界の端から何かが突っ込んでくるのを感知した。
即座に体をひねって回避を試みるが、“何か”は彼が予測していたのよりもずっと早い。
セコンドの胴体が“何か”とかすった。と、同時に、彼の内ポケットがわずかに軽くなった。
(やられた)
セコンドは“何か”に目を向ける。素早い動きで中央の螺旋階段に走っていくその姿は薄汚く、頭部から何か長い物が二本ばかり生えている。髪は灰色で、その身長はセコンドの胸の高さくらいしかない。姿から鑑みるに、幼い子供のようであった。
子供は螺旋階段の方へ走ると、落下防止用のガラスの壁を駆け上り、ためらいもなく下の階へ落ちて行った。
セコンドは内ポケットを確認する。盗まれたのは電子メモ帳と身分証明書のようだ。
(……私としたことが、捜査記録を盗まれることになるとは)
彼は黙って螺旋階段へ向かった。
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