“頑張りたいことを頑張る”ために、今日も彼はシャリを炊く

適応障害により都内のITベンチャー企業を退職し、実家のある富山に戻った主人公・修二。
生活費と社会復帰のために寿司屋でアルバイトをして過ごす日々は、不安定そのもの。
安い給料で長時間の肉体労働をなんとかこなし、おまけに高校生アルバイトの教育係まで担当しても、給料は増えずにその日暮らしの毎日。大好きな趣味(小説執筆)に費やす時間を持てていることだけが、修二にとっての希望だった。

修二は、寿司屋のアルバイトを通じて様々な人と出会い、関わっていく。
人との関わりの難しさを感じて前職を退いたこともあり、簡単にはいかず、迷い悩むこともあれば、衝突もある。

それでも、自分なりのやり方で誠意を尽くし、一人ひとりの他人と向き合っていく修二はかっこいい。上手く表現できないが、読み進めていくうちにシンプルにそう感じた。

心に残るシーンは色々あるが、
「ゆあ、覚えといて。僕みたいに、どうしようもない大人なんて、世の中にいっぱいいる。そんなどうしようもない大人の言葉を真に受けて、無理に悩まなくてもいい。頭が悪いは結構! ろくでなしでも生きていける。学校いかんでも、バイトとか、頑張りたいところで頑張ればいいよ」

例えばこのセリフ。教育係となった後、女子高生アルバイトのゆあに対するこの言葉は、本作に込められているメッセージの一つではないかと感じた。

頑張りたいところで頑張る。正社員という安定した立場を棄ててアルバイト暮らしをする修二は、確かに他人からみれば頑張っていなかったり努力を怠っているように見えるのかもしれないが、そんなはずないよなと、本作を読みながら実感した。
なぜなら、彼は日々の寿司屋の仕事に懸命に取り組んでいるし、また、仕事の合間には、まだ見ぬ誰かを喜ばせんとして小説の執筆に励んでいる。これ以上ないくらい頑張っていると私は思う。
世間一般のレールから外れていたとしても頑張る権利は誰にでもあるし、頑張っている他者を貶めることも許されない。そう思うのだが、そう簡単に許されないのが現代社会なのだろう。作中でも、元恋人に自らの立場や頑張りを否定されたことで、修二はなにを信じて生きていけばよいかわからなくなり、仕事中に落涙してしまう。

リアリティーのある人間模様や情景描写・心情描写の数々には、作者の実体験が反映されている面があるのだろう。
修二が各場面で悩み葛藤する際のそれはとりわけ生々しく、思わず身につまされるような感じさえある。

第25話まで読んだ時点でのレビューであるが、心身の疲労が限界に達している修二に、どうか救いがあってほしい。少しでも前向きな気持ちで生きてほしいと願いながら、この先の投稿を楽しみにしたいと思う。

リアリティー色の濃い人間ドラマや、美味しそうなグルメがたくさん出てくる作品を読みたい人におすすめの一作。ぜひ手に取ってみてほしい。

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