第9話
「えっと……」
「ん………」
並んで座ったシートの上。
僕は彼の手に指を絡ませ、何も考えられない幸せの中を漂っていた。
「俺としては、このままでも全然OKなんだけど、ユウキは俺に聞きたい事が有るんじゃないの?」
「え……?何を?」
彼に凭れ目を閉じたこの状態で、何を望めと言うのだろう。
「ぶっちゃけこっちは、ユウキの情報は殆ど把握してあるけれど、ユウキは俺の事を全然知らないだろうし、こうなった経緯も疑問に思っているんじゃないかな…って」
「…うん…そうかもしれないね……」
言われてみれば、確かに疑問に感じるけれど、今はこうしている事の方が大事なような気がするんだ……。
「まあいいや。今日は疲れただろう?家に着くまでもう少しかかるから、しばらく眠っておいで」
「はい…」
僕はこうして居られればそれだけで満足、眠りすらどうでもいい事だ……。
なんて思ったんだけど、気が付けばふかふかなベッドの上だった。
あれからどの位い時間が経ったのだろう…?
と言うより、彼はどこ……?
「ユウキ?目が覚めたのかい?」
思いのほか近くで声が響いた。
そして首を巡らせば、すぐ横に彼がいたんだけど………。
「あっ、エ…あの…&%#△?〇!!!!」
僕はその状況に驚き、思わず彼から距離を取ろうとした。
「ダメ、逃がさないよ?」
そう言われ、抱きすくめられる。
僕は逃げる気などさらさらないけれど、と、とにかく近すぎる。
「ん、ようやく何かを考えられるようになったみたいだね。だけど…ねぇユウキ、順を追って色々な事を説明したいところだけれど、もうしばらくこうしていてもいい?」
その言葉に僕は彼の胸の中で、こくんと頷いた。
「ボス、お目覚めですか?」
軽いノックの後、返事をする間もなく男の人が入ってくる。
「ドグ、だから断りもなく入って来るなと言っているだろう!それと、ボスはやめろ」
そう答えながら、彼は僕をダウンで包み込み、なおかつ自分の体で隠すように動く。
「ちゃんとノックはしましたよ。それと何故ボスと呼んではいけないんですか?いつもそう呼んでいたのに」
「そ、その呼び方は……下品だ」
「またまた~。ユウキ様の前だからってかっこつけて。ボスがだめなら何と呼べばいいんですか?坊ちゃまとでも呼びますか?」
「殴るぞ!」
そんな二人のやり取りを見ていると、お互いの立場は自然と分かるけれど、それでも信頼し合っているようで、とても微笑ましい。
だけど坊ちゃんって、ちょっと揶揄いすぎかも……坊ちゃん………?
「あの……」
「ごめんユウキ。ドク、用が有るならもう少し後にしろ」
「いや、お邪魔かと思ったんですが、ユウキ様のご両親には目が覚めたら連絡すると言っておいたので。しかしまだ早すぎましたかね」
僕の両親?
「えっ、もしかして父さん達に連絡を……」
「あぁ、勝手な事をしてごめん。彼らの身の安全のため……と言うか、国がユウキを取り戻すために、家族を人質にするかもしれないと思いここに来てもらった。もちろんご両親には、ちゃんと許可を得ているから安心して」
「本当…に?」
父さん達がここに来ていると言うの?
あの時は何も考えられない状況だったとはいえ、僕は逃げるようにここに来た。
だから本当は、僕が父さん達の身の安全も考えるべきだったんだ。
それをこの人は、僕の代わりに父さんたちの事を考え、救ってくれたのか。
そう言えば、僕の事はほとんどの事を調べて知っていたと言っていたっけ。
ならば彼がそういう行動に出たのも何となく理解できる。
でも、オメガの情報を調べるなんて、とても大変だっただろうな。
「すいません、家族の心配は僕がしなくちゃいけなかったのに」
「いや、当然の事だ」
「でも…本当にすいませんでした」
「ユウキ、謝るのは俺の方だ。本当はもう少し時間を掛けて根回しすればよかったんだけど、これ以上ユウキを他の奴の目に触れさせられず無茶をした。だからこれは俺がやるべき事なんだよ」
その言葉は的を得ているのかもしれない、だがその思いが僕にはとても嬉しかった。
「仕方ない。ユウキの父上達に会いに行こう」
そう言い、彼はベッドから降り、僕に手を差し出した。
その手に引かれ立ち上がった僕は、僅かな違和感を感じた。
彼と目線を合わせると、彼の瞳が拳一つ分ほど下に有るのだ。
もっともそんな物は、僕にとってどうでもいい事だけど。
僕にとって大切なのは、彼の存在それだけだったから。
だけど彼は違っていたようだった。
「やっぱりショックだよな。ユウキの番がこんなガキだなんて……」
「は?」
「すまないドク。ユウキは起きたばかりで、まだ俺の名すら伝えていないんだ。彼の両親には30分ほど待ってくれと伝えてくれないか」
「30分でいいんですか?ようやく会えたんですから、逢瀬に1時間や2時間は掛かるんじゃないですか?俺達は馬に蹴られたくありませんよ」
「下衆な事を言っていないで、さっさと行け!」
「はいはい、ごゆっくり」
からかうような笑顔を残し、ドクさんが部屋から出て行く。
「さてユウキ、少し話をしようか」
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