第13話

「俺もいろいろ悩んだんだ。でもどうしても答えが出ない。本当はユウキに尋ねるべき事じゃないかもしれないけど、だけど本当にどうしたら良いのか分からなくて」


彼をこんなにも悩ませるなんて、一体どんな問題が持ち上がったんだろう。




彼の話し…気持ちを要約すれば、僕を誰の目にも触れさせず、自分だけの物にしておきたい。

だけどそれは同時に自分の気持ちに矛盾を発生させる事となり、ジレンマに陥っているらしい。


「俺は自制できると思っていたんだ。たとえユウキを自分のものに出来たとしても、他のアルファのようにはなるまい。ユウキが望む通りに自由をにしてあげよう。そう決めていたのに、いざ君と会ってみればこの為体だ……」

「うん、あなたの気持ちは良く分かるよ」


きっと僕の気持ちもあなたと同じだから。


「君と出会えただけでも奇跡なのに…。今の俺はそれ以上を望んでしまう。何かを諦めなければと分かっているんだ。でも…どうしても選べない」


それは自分に課せられた責任と僕への愛情からだろう。


「その話をしたと言う事は、僕はその選択権を預けられたと言う事でいいの?」

「いや、ユウキの答えは想像できるから…。本当はこんな話すべきじゃなかったんだ。でも、だけどどうすれば良いのか分からなくて、ユウキの気持ちを聞きたくてつい……」

「ダメ、もう聞いてしまったもの。あなたはあの檻から僕を解放し自由に羽ばたけるようにしてくれた。でもそれに反し、あなた以外の誰の目にも触れさせず自分の手元にずっと囲っておきたい」


それは図星だったのだろう。

彼は目を逸らし俯いた。


「矛盾しているだろう?でもどちらも俺の気持ちなんだ……」

「そうだね。ねぇ、えっと……あなたは僕の事……好き?」

「ユウキ」


彼は座ったままの僕を掻き抱き、そっと唇を重ねる。


「好きだよ。愛してる」

「ならば僕の我儘を聞いてくれる?」

「そう来たか…いいとも、何なりと」

「ならば、あなたが対処しようとした選択肢を全て教え………」


『ボス聞こえますか?まだ時間が足りなければ、ユウキ様のご両親には出直してもらいますかね?』

「まずいユウキ、今何時だ!?」

「分からないよ」


僕達は慌てて部屋を飛び出した。




久しぶりに会った両親は、思いのほか元気そうだった。


「父さん達に何事も無くて良かった」

「あぁ、お前も無事に脱出できて良かった。実は少し前にフロレンツ様から連絡をいただいて、計画は事前に教えていただいていたんだ。その上我々の事まで心配していただき、なんとお礼を言えば良いのか」

「いや、全ては俺のためなんだ。それに付き合わせてしまい、あなた方は国から出る事になってしまった。申し訳無かった」

「違う、あなたは僕のためを考え両親の事まで………。本当にありがとうございます」


「まあまあ、なにやら話は堂々巡り、長くなるでしょうから、座ってゆっくりと話されてはいかがですか?」


お茶を並べながらドクが言う。

信用できる人が、いつも彼の周りに居てくれるのはとても心強いけれど、この人の仕事の守備範囲は一体どこまでなんだろう。



「まずは結樹をあそこから助け出してくれた事、心からお礼を申し上げます。最初は結樹が特別な存在とされ、手厚く保護を受け将来の幸せが約束されたと思い有頂天になっていました。だが面会に行くごとに結樹の様子が変わり、元気が無くなって行く事に不安を感じていたのです。まさか政府があのような事を……オメガを道具のように扱っていたなど」

「そう。まあどの国にも自分の利益に敏感な奴はいますね。そのためには何を犠牲にしようと、誰を傷つけようと心が痛まないやつが。ただあなたの国は酷すぎる。だから俺も正式なルートを無視し、一刻も早くユウキを助け出したかった。後でドク達に無茶をし過ぎだと怒られたけどね」


何と言う事だ。

冷静に考えれば、ジェットから飛び降りたり爆薬を使うなんて、掛け替えの無い人がなんて無謀な事を。

後でこれ以上無理をしないよう、約束してもら……えるだろうか?


「さらに私達にまで何の不自由の無い生活を用意していただきました。このご恩に報いるよう、私に出来る事が有るなら誠心誠意尽くさせていただきます」

「とんでもない。自分の義両親のためですから当たり前の事です。それに俺が提供したのは住む所と仕事だけ。もちろん気に入らなければ遠慮なく言って下さい」




それからみんなで夕食をとり、話をし、父さんたちは新しい家へと帰って行った。


「ありがとう、何から何まで……」


部屋に戻り、甘えるように彼に凭れながら言う。


「結局は俺の下心からだったんだけどな」

「それでも…ありがとう、嬉しい……」


彼に抱き寄せられ、髪を悪戯されたりキスされたり。


「もう休むか?」


少し戸惑った声でそう問われた。


「いえ、さっきの話の続きの事でしょう?」

「あぁ、まあ…でもあれより優先順位が高い問題が有るんだ」


さっきよりも大変な話が有ると?

僕は立ち上がり、彼の向かいの席に移った。

一体どんな話が飛び出すのだろう。


「さっき、俺の中の矛盾について話しただろう?まあ話はそれに付随しているんだが」

「はい」

「ユウキ、もう夜だね」

「はい」

「眠いかい?」

「いえ、まだ」

「だけどいずれ寝なければならない」

「そう…ですね」

「でさ、眠ると言う事は無防備になるって事だ」

「はぁ」

「で、その状態になったユウキを誰が守ろうと言う事になって…」

「あなたが…守ってくれるのではないのですか?」


僕はてっきり、あなたが僕を守ってくれると思っていたのに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る