捕らわれた花嫁、真実の愛-オメガバース

はねうさぎ

第1話

「バース持ちっていいよな。発症すればその先一生贅沢して暮らせるんだから」

「だけど、それだけ責任を持たなければならないんだぞ」

「そりゃそうだけど、個人差だってあるんだ。自分の出来る範囲で適当にやってりゃいいさ」

「まあそう言うやつは、絶対に変化することは無いだろうな」


学校からの帰り道で、いつものように友達との他愛の無い話。


「だけどアルファやベータは良いとしても、オメガってほぼ家畜扱いじゃん」


たとえバースが世界から保護されているとしても、結局オメガは性的対象として扱われ、優秀な子供を産むためだけの苗床のような気がしてならない。

そんな事だったら、何のとりえが無くとも、ただの人間として生きて行った方がましだ。

まあ僕には縁のない話だけれど。

それにしても今日はばかに暑いな………。



全ての人間が平等に教育を受け、育てられる時代。

人間の中に隠れ潜むように、オメガバースと言う突然変異種が存在する。

ある日突然、普通の人間として育ってきたオメガがヒートと言う現象を引き起こし”フェロモン”なるものを放出する。

それは虫のメスが、オスを引き寄せるために放つ匂いのようなものだ。

そしてそれに攣られ、アルファやベータの気が狂う。


アルファは頭脳明晰、人を引き付け指導力に長ける。

ベータは参謀的な役割であり、それを傘下に収めた企業は業績を伸ばし、確実に成功すると言う。

そしてオメガは独自が持つフェロモンにより、アルファやベータを引き付け、アルファと交われば良い子孫を残す。

アルファはオメガに強い独占欲を持ち、ターゲットとなったオメガを自分だけの物にするため、本能的に執着し嫉妬深くなる。

そのため番となったオメガの末路は、その後の人生をほぼ軟禁状態で過ごす事となると言う。



研究が進んだ現在、可能性を見出され機関に保護されたバース持ちは、その時点で既に各々の検査が容易になるほどその性が変化していると言う。

そして検査の結果、正式にバースが認められた者は国から認定され、かなりの待遇で保護される事になる。

それを目的に嘘を付く奴もかなりいるらしいが、バースについてはかなり研究されおり、嘘を付いてもすぐにばれるらしい。


僕はそんな話を、一般知識として授業で聞いていた。


「だけど夢を見るぐらいいいじゃないか。俺達だってまだ可能性が有る年齢だし」

「夢?赤んぼ製造機になるぐらになら、普通の人間のがましだよ。それに僕は溺愛されるより、溺愛したい方だな」

「お前なら、絶対前者だろう?それにもしかするとアルファやベータになる可能性だってあるし」

「それって、もし変化するとしたらオメガ前提だろう。ごめんだね」


こんな話をしたところで、どうせ僕達の話は宝くじに当たるか外れるかのレベルの戯言だ。


バースに目覚めるのは、200万人に一人と言う確率らしい。

大体にして、僕はバース持ちに会った事すらない。

たまにアルファやベータをテレビで見る程度だ。

オメガなんて見た事も無いし、詳しい話すら聞いた事も無い。

きっと公にされる事すら許されていないんだろうな、可哀そうに…。


「とにかく俺達には関係のない話だけど、でも万が一って言う事だってあるかもしれないし」

「まあおつむの出来で、お前がアルファかベータになるのは無理だろうけど、オメガになる可能性は残っているかもな。頑張れ。それにしても今日はばかに暑いな」


もうすぐ冬だと言うのに、今日の気温は異常だろう?


「そうか?今日はけっこう寒いぞ?お前大丈夫か?」

「ん~?」


そう言えば今朝から調子がおかしかった。

だけど武史と遊ぶ約束をしていたから、無理をして家を出てきたけれど、家で休んでいた方が良かったか?


「そんなに暑いならば、そのやぼったいジャケット脱いだらどうだ?」

「ん……」


そう答え、何とかジャケットを脱いだけれど、体温が下がる事は無かった。

あぁ、暑い……。

喉が渇き息が上がる。

体の力が抜けていく………。

やばい。


「ごめん…僕帰るわ」

「あ、あぁ。その方がよさそうだな」


俺は振り返り歩き出すが、すぐに膝から崩れしゃがみ込んでしまった。


「おい、大丈夫か?おまえ病院に行った方が良いぞ?」


いや、それはまずいと俺の本能が言う。


「悪いけど、バス停まで…いや、タクシーを捕まえてくれないか?」


なけなしの小遣いでタクシーを使うなど、かなり痛い出費だけれど、この際仕方が無い。

武史はすぐにタクシーを捕まえてきてくれて、抱えるように僕を乗せてくれた。


「俺も付いて行こうか?」

「いや、大丈夫だ。今日は日曜日だから親が家にいるから」

「そうか?」


武史は最後まで心配そうにしていたけれど、僕はそんな武史に何とか笑顔を作り手を振った。



家に着いても、車から降りる事が出来ない僕に、運転手さんが親を呼んできてくれた。

それから父さんに抱えられるように家に運ばれた僕は、部屋のベッドにすぐに横になった。

タクシーの料金は母さんが払ってくれたようだ。

ラッキー。


それから親は甲斐甲斐しく俺の世話を焼き、何度も病院に行こうと即したが、俺は断固として首を縦に振らなかった。


「きっと風邪を引いたんだよ。季節の変わり目だし今朝だって寒気がしていたし」


実際は寒気と言うより、のぼせに近い状態だったけれど。


「ほら、軽い風邪ですなんて言われるの恥ずかしいし」

「だけどとても辛そうだし…、やはり病院に行きましょう?」

「だって今日は日曜日で、どの病院だって休診だよ…」

「西町の救急病院ならやっているわ」

「やだよ、そんな遠くまで行くのは…。明日…もし明日治っていなかったら、斎藤医院に行くから……」


そこなら歩いて5分ほどだし、両親の手を借りなくても一人で行ける。


「仕方ないわね、全く頑固なんだから…。明日良くなっていなければ、必ず病院に行くのよ?」

「ん、約束する」


そう言い目を閉じた。

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