第1章 邂逅

01 屍砂漠

 


 ****彼女の頭上に広がる大地。


 そこには、黒茶で塗りたくられたような大地が頭上を覆い、天界の光を阻む。


 しかし、光が、光源がない、というわけではない。


 ****彼女がいる場所は砂漠でありながら、赤く光を放つが点々とある。


 そして****彼女は、そのとても鈍く、不気味に赤の光を放っているその岩に座っているのだ。


 光が一切なく、闇に閉ざされた場所すらあるこの魔界において、光があるということ、これは珍しいことだ。


 そして、この闇に閉ざされた世界で生きることが、悪魔に課せられた罰だと人は言う。


 見当違いも甚だしく、愚かなことだと思うが、人は他者を虐げて初めて安心や自尊心を保てるのだ。


 哀れに思えど、それを真面目に取り合うなど、自分が同じ愚者になった気分になること間違い無いと感じるが、悪魔の中にはそれを苛立たしく思っているものもいるようだ。


 ****彼女は頭上を見上げる。


 けれど、その目には悲しみや、先に述べたような理由からくる怒りといったものではないことが窺える。


 では何か、と問われると困ってしまうが、注視をあまりしたくないが、よく見ると、それは****彼女が頭上を見上げる時に見せる恍惚としたような色の瞳だということがわかる。


 一体その瞳には何が写っているのだろうか。


 ****彼女の持つ心の闇を覗くような気がするので深くは考えない、いや考えてはいけない。


 少しして、頭上を見るのに飽きたのか (おそらく違うと思うが)、****彼女はブラブラと揺らしている足を見ている。


「は〜」


 彼女の吐息は紫色に染まり、すぐに霞むように消えていく。


 それは、天界から降り注ぐ光の届かないこの屍砂漠かばねさばくは常に、水が空気中に触れればあっという間に凍りつくほど寒く、吐いた息に含まれる水分は屍砂漠にしか存在しない毒素に影響され青く変色し、そこに岩の光が当たることで紫色になるためだ。


 具体的に吐息が青く変色する理由を説明しようとすれば、長くなるので割愛する。


 しかし、相も変わらず不思議法則の魔界だ。


 ****彼女の外見が10代後半で固定されているのもやはり、魔界ならではのことだろう。


 そして


 ブブブブブブブブ


 煩い羽音を立てながら彼女に向かってくる魔蜂の群れも、魔界ならではだと言わざるおえない。


 距離としては人間であれば辛うじて視認できるほど離れている。


 しかし、長き時を生きる悪魔である彼女ならば魔蜂の群れを認識するなど容易いだろう。


 魔蜂は人界に生息する蜂が魔界に偶然紛れ込んだことで変質した生き物だ。


 5対の脚に、3対の翅、全長は人を軽く超える大きさだ。


 ソレが群れをなしている。


 人によっては吐き気を催すかもしれない。


 そんな醜悪な姿形だ。


 ****彼女に近づくにつれて、魔蜂の群れは広がり、取り囲むように移動している。


 この屍砂漠において、相手がどのような姿をしていても油断はできないのだ。


 餌一つ狩るだけでも全力を注がなければ、逆に狩り取られるの自分たちかもしれない。


 魔蜂は長い間、ここ屍砂漠に生息することで理解した、いや理解させられてしまったのだろう。


 今、目の前にいる****彼女は外面だけは整えている化け物かもしれないのだから。


 判別することはとても難しい。


 力を隠すのはここ屍砂漠に住むものでは日常茶飯事。


 騙し、騙され、それでも足掻き続けて生きるしかない場所なのだから。


 群れはついに彼女を取り囲む。


 後は、****彼女を食い殺し、巣に運ぶだけ。


 果たして、魔蜂の遺伝子にまで刷り込まれた生存本能を裏切る形で、ソレは示された。


 ****彼女が無残に取り囲んだ仲間に食い殺されたという形で。


 そのように、魔蜂の群れのリーダーは見えていたことだろう。


 それが、完全な勘違い以外の何物でもないことを知らずに息絶えたことは、幸運か、はたまた不運か。


 なぜ、そのようなことになったのか?


 それは、魔蜂が狙ったのは魔界において頂点に立つ魔王の一柱たる彼女であるからだ。


 種族が淫魔族サキュバスでありながら、魔界随一の力を誇る異端である****彼女


 ****彼女は、凡ゆる認識を捻じ曲げ、または操る精神魔法、防ぐことのできない空間魔法と、精気を毟り取る吸魔という凶悪極まりないものを持つからこそなし得るのだろう。


 先ほどの魔蜂を例として考えよう。


 ****彼女は体を動かすことなく、魔蜂を精神魔法で自分を食い殺しているように認識させている間に吸魔で精気を吸い取り、殺した。


 魔蜂はいつ自分が死んだかすら理解できなかっただろうし、認識すらできなかっただろう。


 これは****彼女の力の一端でしかない。


 しかし、これだけでも彼女が魔王と恐れられることは理解できるだろう。




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***吐息が青く変色する理由***

(読まなくても良いやつ)

 ……屍砂漠で、吐息が紫色に変色するのは青になった吐息に岩の赤い光が当たるためです。こちらでは、吐息が青くなる理由について説明したいと思います


 この世界ではどのようなものも魔法を使うための物質、魔原子を含む(原子とは別物だが、あらゆる物質は魔原子がなければ直ぐに空気中に存在する魔原子に魔化する。つまり、魔原子のない物質は自然界において存在できない)。そのため、吐いた吐息に含まれる水分にも魔原子が存在する。しかし、魔界に存在する魔原子は歪みであり、その水分にある魔原子を汚染してしまう。そのため、汚染された魔原子は青くなるから。



 

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