04 人界での一幕
「「「「「「「「「「殺せ‼︎ 殺せ‼︎ 殺せ‼︎ 殺せ‼︎ 殺せ‼︎ 殺せ‼︎ 殺せ‼︎ 殺せ‼︎ 殺せ‼︎ 殺せ‼︎ 殺せ‼︎ 殺せ‼︎ 殺せ‼︎ 殺せ‼︎ 殺せ‼︎ 殺せ‼︎ 殺せ‼︎」」」」」」」」」」
ホボロス王国の首都ミレニア。
そこで、歴史に刻まれるような出来事が起こっていた。
もう少し正確を期すならば、首都ミレニアのミレヌア神殿、その前の広場で”ソレ”は行われていた。
広場の中央にあるのは、未だ乾きを見せない血の付着した断頭台。
断頭台の前には長机が横並びになっており、その長机の上に、いくつもの首が置かれている。
悲しみの顔。
怒りに満ちた顔。
達観した顔。
恨みを感じさせる顔。
頬に涙の跡がある顔。
大量の血が付着している顔。
もはやかつての外形を止めていない顔。
表情や外形に違いはあれど、どれも陰惨さを想起させる顔という点は共通していた。
しかし、民衆の注目の的はその長机の上に晒された首ではなく、後ろの断頭台でもない。
なにしろ、断頭台には裁くべき人はおらず、その断頭台の後ろにいる人の方が晒された首よりも民衆にとっては憎き存在であるからだ。
その者に、ある者は罵声を浴びせ、ある者は怨嗟の声をぶつけ、ある者は死を望む声を上げる。
その者は、まだ年端もいかぬ子供であった。
綺麗に整った服を着ているが、その両手と両足はきつく縄で縛られ、体は痩せ細り、痛々しく見える。
さらに、子供は紫色で描かれた魔法陣の上に座らされていた。
その子供の瞳は前を見ているようで実際には何も写していないように空虚で、体はきつく縛られた縄の痛みか、少し痙攣するだけだ。
その様子を見てなお子供に対する民衆の怒号が止まない中、豪奢な装飾を身に纏い、にこやかな笑みを絶やさない神職が魔法陣の前に歩み寄った。
神職は金の杖を左手で持ち、金の刺繍が施された神官服を着ており、頭に基調を白とし、金色の糸で縁取られた冠を被っている。
彼に巻物を持った神官が近づいてくる。
そして、神官は彼の右隣に跪き、恭しく手渡す。
彼は右手で神官から渡された巻物を持ち、金の杖を神官に預ける。
そして、両手で巻物を広げ、記されていることを読み上げる。
「この者、ネラリオス・ラ・キシタルはキシタル王家最後の血族者にして、愚王ハバナリア・トゥ・キシタルの実子である。圧制を敷き、教会を蔑ろにした愚王の罪は一族断絶の罰でさえ生温い行ないである。故に、この者、キシタル・ネラリアの罪過は『魔界送り』の刑とする」
『魔界送り』、それはハーヴァネイル教において最も重大な罰である。
魔界に送られたものは魔界の毒素を吸い込み、苦しみ死ぬ。
その痛みは人界では体験することもできないようなものである。
さらには、死んで魂だけになっても毒素の影響を受け魂に蝕み痛みを刻み込んでいく。
そして、痛みで魂が耐えられなくなった頃、その魂は悪魔として生まれ変わり、死ぬことすらできない永遠の地獄を与える。
誰もが知っている童話に出てくるため、刑の説明はいらない。
彼が巻物を読み終えると、民衆からの歓声や怨嗟、色々な声が上がった。
彼はにこやかな笑みで民衆を見回すと、巻物を右隣に控えていた神官に手渡し、金の杖を返してもらう。
そして、その金の杖を掲げると、キシタル・ネラリアの下に描かれている魔法陣が怪しく紫色の光で輝き出す。
紫色の
そして、その触手のようなものは少年の足から始まり、体、手、首、頭の順に纏わり付いていく。
最後には少年の姿は触手のようなものに遮られ見えなくなる。
そして、触手は魔法陣の中に沈むようにして少年を引きずり込んでいく。
少年が完全に魔法陣の中に入りきり、触手が靄のようなもに戻り、魔法陣の輝きが消える。
彼はそれを見届けると、にこやかな笑みを変えることなく教会へと戻っていく。
あまりの光景に言葉を失い、固唾を飲んでいた民衆たちが声を上げ始める。
「ハーヴァネイル教、万歳‼︎」
「我らが国に安泰が訪れますように‼︎」
その声はどれも喜びに満ちたものが多かった。
彼らが恨み、憎んだ王族は死に絶えたのだと、心から喜んでいるのだろう。
その声を聞きながら彼はにこやかな笑みの内に思い、回想する。
始まりはいつだったか、と。
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