05 人界での一幕

 


 直接的な原因はホボロス王国の代替わりによる政策転換だと言えるが、そもそもの始まりと言えるのは6年前の隣国、ロートス帝国の事件であろう。


 それは、時の皇帝ロートス・ヒシバイヤ・クレトラスが自国の直轄領へ出向いた帰りに起こったことだ。


 街道を馬車で移動していた皇帝を事故に見せかけて殺した者がいた。


 名をノーベラス・ラーライと言う魔法具を作る女性である。


 元々は国に仕え、魔法具を作ることが職務であったため、皇帝の乗っていた馬車は彼女が設計し、作ったものだった。


 その馬車に爆発をする仕掛けを組み込み、隙を伺い、爆発させ、皇帝を亡き者にしたのだ。


 ついには、自らの持つ精神魔法を使える魔法具で貴族たちを傀儡とし、神聖不可侵なる冠を戴いた。


 不穏なロートス帝国の情勢に、近隣の諸国はどう対応すべきか手を拱いていたものの、危機感は抱いていなかった。


 しかし、それも新皇帝ロートス・ノーベラス・ラーライ(このようなことを公の場で言おうものなら打ち首になるかもしれないが……。なぜならハーヴァネイル教では彼女を背教者と言っているから)が国内に発布した勅令を知り、態度を変える。


 その、勅令の内容が、ハーヴァネイル教の廃止だ。


 国教となっていたハーヴァネイル教を廃し、皇帝崇拝をするよう、貴族、民衆に強要したため、ハーヴァネイル教では後に神敵として認定されたほど。


 それは、ほぼ全ての国々と対立することと同義であった。


 理由は、ハーヴァネイル教は一部の民族を除いた全ての国家で国教と定められているからだ。


 もちろん、このロートス帝国の皇帝が出した勅令に、聖国プラトンの国家元首たるハーヴァネイル教の教主は怒り、ロートス帝国に対してあらゆる非難の言葉と、経済的措置を行った。


 これに続くようにして、ハーヴァネイル教を国教としている国々がそれに賛同し、ロートス帝国に対する経済的措置、同盟や協約の破棄などをした。


 当然、ロートス帝国の皇帝は予めそのことを予期していたため、国民が国外へ逃亡しないように国境の封鎖を行い、物資の買い占めなどを行なっていた。


 しかし、いくら国境を封鎖したとしても裏をかいくぐって国から逃げ出す人は絶えず、貿易が絶えたため食料が減り、目に見える形で人の減少が理解できるほどになった。


 更には、国境付近にちょっかいを出す隣国のいやがらせなどで、国の治安は悪化し、2年ほど経つころには民の怒りは最高潮に達しようかとしていた。


 しかし、民衆の反乱が起こる前にロートス帝国の隣国ナレリア王国の強襲により、皇帝は民衆の怒りの矛先を帝国から戦争を仕掛けてきたナレリア王国に誘導させた。


 皇帝は民衆を鼓舞し、ナレリア王国に兵を送った。


 かくして、ロートス帝国と、ナレリア王国の戦争が始まった。


 そして、この戦争でロートス帝国は無敗でナレリア王国の首都を陥落させ、ナレリア王国全土を手中に入れることになった。


 これに味を占めたのか、ロートス帝国は周囲の諸国に出兵させ、その国から物資を略奪し、支配した国からは大量の税金と物資の搾取をした。


 その頃のことだ、ホボロス王国の国王が病気にかかり、王位の継承をすることにしたのは。


 継承者は国王の一人息子であるキシタル・トゥ・ハバナリア王子である。


 彼は、ロートス帝国と戦うことではなく媚び、へつらい、ついには密かに同盟となることを記した密約の調印まで行った。


 これを知った聖国プラトンが行ったのがホボロス王国の民衆を扇動しての反乱、国王の殺害、王族の断絶だ。


 彼は思う。


 これは正しい行いだったのかと。


 しかし、彼が正しくないと思い、教主の意に背いたところで何も変わりはしなかったということも理解している。


 王族の子を殺すのが自分から他の人に代わるだけ。


 そう、それだけだ。


 自分はいつでも代えの効く者だ。


 だから、子供に対して少しの罪悪感があるだけだ。


 しかし、ハーヴァネイル教のために魔界送りとなった子供を思い、心の中で神に祈った。


 彼に幸せがありますように、と。


 これぐらいは許されてもいいだろうと思い。


 そうした思いを胸に彼は、ミレヌア神殿の中に入っていった。



 

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