06 彼女の日常・朝

 


 朝、といっても良いのかはわからないが、1日が始まる。


 朝といって良いか分からないのは、ここ一体を囲っている結界から降り注ぐ光量は1日を通して変動しないためだ。


 そのため、****彼女が寝ている部屋の窓にはカーテンが引かれ、照明も付いていないため真っ暗だ。


 微かにシーツの擦れる音がした。


「ンッ…ン〜」


 どうやら****彼女はまだ寝ているらしい。


 まだ、とは言っても普段の起きる時間とあんまり変わらないが。


 主観が入っているので、もしかすると少し遅いかもしれないという一抹の考えが過ぎるが、それはそれだ。


「チュウゥ(メナリア、起きてでチュ)」


 ***がメナリアを起こそうと鳴いている。


「ンン、ン〜」


 しかし、その甲斐虚しく、メナリアは起きたくないとでも言いたいのか、語尾が上がっている。


「チュゥゥゥ‼︎(カーテンを開けるのでチュ‼︎)」


 家具の隙間などから鼠が大量に飛び出し、カーテンを開けていく。


 とある鼠は飛び上がり、レールに上がり、フックを持って開けていく。


 他の鼠は、カーテンを畳んでタッセルで結ぶ。


 まるで職人技のように洗練されているその行動だが、ただカーテンを開けているだけ。


 これまで、何度カーテンを開けていたのだろうか、鼠たちの苦労が伺える。


「ん、ん……ナゴス、開けないで」


「チュゥ(声をかけても起きないメナリアが悪いんでチュ)」


 正論を言うナゴスにメナリアは


「あと1年」


「チュゥゥゥゥ!!!!!!!!!!??????????(ハァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!??????????)

 チュウゥゥゥゥッッ‼︎(寝言は寝てから言えでチュ‼︎)」


「わかった……。寝てから言う」


「チュウッ‼︎(違う。そうじゃないでチュ‼︎)」


「スヤァ……」


 毎日毎日、飽きないのだろうかと疑問に思う応酬を繰り返すメナリアとナゴス。


 しかし、だから知っている。


 この応酬くだらない会話に終止符を打つ言葉を。


 それは


「チュウ…(リーナに告げ口してもいいということでチュね…)」


 人頼みだ。


 メナリアも、こうなることをわかっているのに足掻くこと、足掻くこと。


 メナリアに言わせれば『わかっていてもやらなきゃいけない時がある‼︎』だそうだ。


 魔王の名が泣いていること間違いないしだが、普段の彼女はこんなものだ。


「……ウッウッウッ、ナゴスが裏切った」


「チュウ(人聞きの悪いことを言わないでほしいでチュ)」


「起きればいいんでしょ、グスン」


「チュウ(そうでチュ)」


 非常に無情に現実を突きけてくるナゴスをメナリアは憎々しげな目で睨む。


 しかし、ナゴスはどこ吹く風と、メナリアの睨みを無視する。


 カチャ


 ドアを開ける音がし、リーナが部屋に入ってきた。


「今日は起きているのですね」


 開口一番の言葉がこれとは、どれだけメナリアの信用がないかが窺える。


「ご飯が出来ました。どちらでお食べになりますか?」


「ここ」


「……」


 リーナが無言でメナリアをジト目で見る。


 メナリアはなんども繰り返したためか、無駄に上手な口笛を吹く。


「はぁ」


 と、一息。


 リーナは諦めたように首を振る。


「わかりました。それでは持ってきます」


「うん、お願い」


 部屋を出て行くリーナの表情は諦めの境地に達しているように見えた。



 

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