03 我が家

 


 光一つない中、その場所だけは違った。


 結界が森一つをまるまる覆っており、その結界から光が降り注いでいるのだ。


 魔界とは、とても思えぬほど肥えた土地ででき、巨大な樹々が聳え立っている森である。


 そして、その森の中央付近のぽっかりと空いた土地には、とても大きな神殿が建っていた。


 神殿と森を隔てるように白く高い壁と、固く閉じられた大きな門。


 それは、森からの来訪者を威圧し、拒むように見える。


 それとは対照的に神殿は威圧感があるものの、拒むような雰囲気はなく、どちらかというと招き入れられるような雰囲気を持っている。


 その神殿は、白を基調とし、彩色として金や銀の装飾が施されている。


 建物の玄関である扉は草木をモチーフとしたのであろう、葉や花を銀で蔓を白で装飾している。


 その扉を開ければ広がるのは礼拝のために設けられた広間。


 正面のステンドグラスには神の力を表す象徴が3つ描かれている。


 一つ目は創造。


 人類の右手の形をしている象徴は、あらゆるものを創り出すことを表す。


 二つ目は破壊。


 人類の左手の形をしている象徴は、あらゆるものを壊すことができることを表す。


 3つ目は混沌。


 白と黒とが混じり合うようにして描かれた円の象徴は、この世界の無秩序と神の気紛れを表す。


 右手にある出入り口から出ると、風通しの良い場所に出る。


 その道は左右に壁がなく、柱が天井を支えているだけ、左には花が咲き乱れ、右には白い花をつけた巨木が立っている。


 その巨木の傍に****彼女はいた。


 巨木の幹を背凭れにして、思案に耽っているようだ。


 やがて、飽きたのか巨木から手を離し、歩き出す。


 向かうのは、先ほどの道が通じる神殿から離れた別邸。


 彼女の足を風に吹かれて棚引く草花がくすぐるようにして撫でる。


 よく見れば、足元に***鼠のような生物もいる。


 改めて考えても、4つの金の目を持ち、3本の灰色をした尻尾持った鼠を鼠と言って良いのかはなはだ疑問であるが。


 それ以外の部分……脚が4足であり、白の体毛をしているところなどは鼠の外形と当てはまるのだが、他の部分がいささか突飛であると思ってしまう。


 その***は彼女の足元をあっちに行ってはこっちに行きを繰り返している。


 つまり、彼女の前を歩いていると思った時には足幅の違いですぐに追い抜かれ、それが気に入らなかったのか足を速めて彼女を追い抜くと気を抜いてまた追い抜かれる。


 これはわざとやっているようなふしがあるようにも思える。


 それを知ってか知らずか、*******彼女の後ろを歩くことを甘んじて受け入れることにしたようだ。


 もしくは、目的地に近づいたからかもしれない。


 ****彼女が別邸の玄関の前に立つと、扉が開く。


 もちろん、****彼女が開けたわけではないので、扉の内から一人の***女性が出てくる。


「お早いお帰りですね」


 その***女性はいわゆるメイド服とやらを来ていた。


 妙齢と思われる外形に、きっちっとした着付けをしているか、メイド服であるのにお堅い感じがする。淡紅色の髪色にこれまた淡紅色の瞳、肌は透き通るような白色であるが、健康的な赤みも帯びている。


 それに比べて****彼女は……肌は白色なのだがもはや病的といってもいい青白い肌色に、瞳の色が白く、髪は先っちょにいくほど黒から灰色に、そして更には白に変色していっている。


 これだけ****彼女の特徴を挙げてみると、末期の患者かと言いたくなるが、どちらかというと凄みがあり、健康的に見えるのだから怖い。


 まぁ、悪魔だからと言われてしまったらそれまでなのだが。


 その、****彼女だが、家から出てきた***女性にした返答は


「うん」


 だけである。


 しかし、***女性の方は気にした様子もなく、


「そうですか」


 と答える。


 ***女性の方は扉を大きく開けて、****彼女に部屋に入るようにと促す。


「少し、早いですが、昼食を食べますか?」


「ううん。いい。寝るから」


 そう言いながら****彼女は家の中に入っていく。


「わかりました。それでは昼頃に起こしに参ります」


「うん。わかった」


 広々とした玄関のすぐ隣にある階段を****彼女は登っていく。


 向かう先は自室だろう。


 彼女が2階に姿を消すのを***女性は見届けると、昼食を作りに調理場へと戻っていく。


 ***は、お零れにでも預かりたかったのか、***女性の方に着いて行った。


 現金なやつである。


 

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