02 深部

 


 巨木に空いた穴を通ると、そこは光が一切存在しない、闇に閉ざされた場所になっていた。


 巨木の穴が通じている世界はいくつもある。


 それはメナリアが作ったもう神が作ったものとは違う世界であり、その全部で15個ある世界ではそれぞれ独特の生態系が出来上がっているのだ。


 そして、その内一つが、この闇黒が支配したようなこの世界である。


 ここで、一つ留意してほしいのは、このような世界をメナリアが一から作り出したものではないということだ。


 まず、なにもない異空間、つまり小世界を作り出し、そこに土を、水を、植物などを中に入れることで自然を再現したのだ。


 そして、その場所に配下たちを住まわせているというわけなのだ。


 配下たちはこの世界から出ることも中に戻ることも簡単にできる。


 よって、監禁されているわけではない。


 が、他者を勝手にこの世界に呼ぶことはできない。


 この世界は相互に影響与えあい、メナリアの所有する神殿と住居のその周りの環境を整えるために造られたそのおまけ。


 この世界に他者を呼び、その者がこの世界を崩したら、メナリアの楽園は消え失せ、荒れ果てた大地に様変わりするだろう。正しく言うとするなら、かつてのメナリアが住む前の状態へと戻る、と言った方が正しいかもしれない。


 そうなったら、魔界のパワーバランスに大きな影響が出るだろう。


 もしかしたら、世界が傾くかもしれない。


 そうなったらそうなったで楽しいだろうが。


 ──閑話休題。


 ともあれ、メナリアが現在いるこの場所は一部の界隈から闇黒界などとも呼ばれている。悍ましく、精神が弱いものは視認しただけで気が狂ってしまう小世界の管理者がいるのだから、当然のことかもしれない。もっとも、当の管理者は普段、『闇黒』といった言葉からは程遠い姿形をしているのだが……。


 少なくとも、メナリアに普段見せる姿はそうなのだ。


 透明でありながら白い後光を放ち、自分は神だとでも言うような姿形。


 何もない空間から作り出された人型のそれは主人メナリアと話すためだけに生まれたものだ。しかし、顔と思しきものに目、耳、鼻、口、多くの生物が必要とするそれはなく、かろうじで人型の凹凸から女性を模していることがわかるのみ。


 怪しいですと自分から言っているような姿だ。


 「久しぶり……」


 口元を笑ったように歪め、彼女は言った。


「久しぶり」


 少し呆れたような面持ちでメナリアは彼女の挨拶に答える。


「分かってる、あの浄化の時期でしょ?」


「うん、配下にばっか任してないで、お前もそろそろやれって」


「ふふふ、500年ぐらい前にやってから一回も行ってないんでしょ? そりゃあ言われるでしょ」


 彼女が面白そうに笑い、メナリアは少し不満そうにむくれる。


「それじゃあ、来年まで会えないね」


「……うん」


「まぁ、メナリアだから心配はしてないけど、無理しちゃダメだよ?」


「うん」


「それで、行くの?」


「うん、そのために来たんだもん」


「う~ん。あ~、そっか~。もう100年ってことか~。早いよね」


「そう?」


「なんかちょっと物思いに耽ってたら数十年過ぎちゃうし」


「……それには同意できないかな」


 メナリアの呆れを含んだ視線を受けた彼女は、場の空気を和ますためかアハハと笑う。


 もし顔に表情があったら苦笑いをしていそうな有様である。


「そ、それじゃあ行ってらっしゃい」


 これ以上この内容で話すと墓穴を掘る、と思ったのだろう。


 強引にメナリアを送り出そうとする。


 その勢いに押されてか、メナリアはしぶしぶ目的の場所へと向きを変える。


「それじゃあ、またね」


「う、うん。またね」


 必死で取り繕っており彼女の返事は震えている。


 メナリアが去っていくことでほっとした表情見せる彼女の様子に、相も変わらずこれで大丈夫なのだろうかと言いたくなる。


 それはともかく、メナリアはついに、目的地に着いたようだ。



***重要単語***


*小世界

 この世界、ミナリエルにありながら、隔離された空間であり、なおかつ異なる法則が存在する場所の総称。

 メナリアの作った世界も当てはまる。



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