第8話 お別れ会
狭い部屋で1人。
彼女と過ごした時間を思い出しながら、今の自分の状態が元に戻れば彼女ともう一度やり直したいと思った。
早くこの症状から抜け出したい。
原因がわかれば解決できる。そう信じて私は必死になって一番大きな原因の〝何か〟を考え続けた。
気分の暗さが抜けない。心の落とし穴に落ちて、そこから抜け出せない。強烈な孤独感。
徐々に現実感が無くなっていく。まるで魂のない身体。
この時期、不思議と久しぶりな友人に会う機会が多かった。
同じ時期に上京した同級生が車を買い、ドライブに行こうという誘い。
私は病気のことを話さなかったが、彼は帰り際「まとまった休みをとった方がいい。」と言った。きっと私の雰囲気が変わっていることに気づいていた。
専門学校の同級会。華やかな新宿の街。同級生の女性達はしっかり化粧し、学生の時とはイメージが変わっていた。私が一番仲良くしていた友人は真っ赤なライダースを着てエネルギーに溢れていた。みんな未来に向かっていた。今の自分が悔しかった。ほんの数ヶ月前は人生が楽しくてしょうがなかった。その姿を見せたかった。
上京後すぐに付き合い、短い期間で別れた彼女からも連絡があった。わざわざ千葉から私に会いに来た。私は彼女を抱いた。彼女もそれを望んで来ていた。押し殺す声が今の彼との生活を想像させた。セックスは味気なかった。気持ちのない相手とのセックスはマスターベーションと同じだと思った。
セックスの後、彼女は隣で私のことを「触れちゃダメなものみたい。」と言った。「俺は前と変わったか?」すこし間を置いて「何も変わってない。」と彼女は言った。
今の状態を人に気づかれたくない。無理に明るく振るまった。以前の俺はどんなだっけ。こういう時どう振るまったっけ。以前の自分を演じる。〝こんな時俺はどう感じてたっけ〟
暗く、現実感がない中、止まらない思考。強烈なストレス。
絶叫してうずくまった。
限界だった。
私は受話器を取った。
「家に帰っていいか。」
父親は「ここはお前の家だよ。」と言った。
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