第5話 デート
平日の遊園地。お客さんはまばら。東京の12月の風は刺すように冷たかった。
たまらず、顔が隠れるくらいダウンのフードを被った姿に彼女は爆笑した。
「次あれ乗ろう。」ジェットコースターを指さすと「絶対ムリ。」絶叫系は苦手らしい。
「寒いからもう帰ろう。」
このデートの少し前、私は彼女に告白してフラれていた。「恋人にならなくても2人で遊び行ける仲でいいじゃん。」てことだった。初めての2人だけのデート。それがこの遊園地だった。友達として。
外はまだ明るく、このまま帰るにはなんとなく味気ない。きっと彼女もそう思っていた。「俺の部屋に来る?」
狭い部屋。ソファーがわりのパイプベッドに並んで座り、インスタントコーヒーを飲んだ。安いガラステーブルはカップを置くたびにカチンと音をたてた。
彼女はシャワーを借りていい?と言った。
シャワーを終えた彼女は、Tシャツとトランクスを貸して欲しいと言った。白いTシャツに短パンがわりのトランクス。濡れた髪。彼女は「もう寝よう。」と言って私の腰に手を回した。
柔らかい唇、柔らかい乳房。告白してフラれた彼女。年上の大人の女性。
10代の頃に付き合った彼女とのセックスとは全く違った。あの頃は有り余る性欲の発散だった。今日のは違う。大好きだけど手を握ることも出来なかった憧れの女性をこの腕に抱いている。心が溶けていった。
次の日の朝。彼女は電車で帰ると言った。マンションのドアを開けると冷たい風が頬を撫でた。「じゃあね。」いたずらっぽく微笑んで彼女は静かにドアを閉めた。部屋にはいい匂いだけが余韻のように残っていた。
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