第12話 仕事
「こんばんは。初めまして。俺でいい?」
いわゆる〝出会い系〟で知り合った女性と過ごす短い時間。性衝動は完全にコントロールを失っていた。本当にしたいのかどうかも分からなくなっていた。ただ、こうすることで誰かに認められてる気持ちになれた。あなたは、まとも。そう言ってもらえてるような気がした。
冬の寒い時期、裸足でサンダル。毛玉だらけのスウェット。いつ風呂に入ったか分からないようなベタベタな髪。駅でこんな人を見かけても、私よりまともな人間に思えた。
会社に就職し、しばらく経った時、突然課長から呼び出された。
「仕事はどうだ?」「しんどいです。」交代制勤務に疲れてることもあったが、本当は病気に疲れ果てて出た言葉だった。
「別の部署に行ってみないか。」やっぱりだ。俺がおかしいことを見抜かれた。しかしこの後の課長の言葉は全く予想外だった。「お前は他の人とは違う何かを持ってる。一つのことに集中してやってきた経験がある。お前ならやってくれそうな気がする。プロが見ればわかる。」
私は別の部門に移動することになった。何をするのかも知らない。ただ、交替制勤務から日勤になるのはありがたかった。実はこの移動は、その後の私の人生を大きく変える。
人生は思い通りにはならない。一人で生きているわけではないから必ず人の影響を受ける。特に組織の中にいれば、そこにずっといられるか、昇格できるかも他人が決める。言い方を変えれば、自分に向いてないと思ってる仕事でも、長くそこにいられるのは、それをする事を誰かに認められてるということだ。
慣れない仕事。鬱との闘い。こんな中でも夜は眠くなる。
一日中考えてる脳は思考に支配され、現実を処理する容量が足りなくなっているようだ。
寝ている間だけは苦痛を感じなくてすむ。布団の重みを感じながら、魂の抜けたような身体はまるでパソコンの電源を落とすように眠りに落ちていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます