第12話
蓮伍は私に強い視線を送り続けている。何かを伝えたいのか、その意図は全くくみ取れない。
「その通り。奥山蓮伍その人だ」
確かに幼さが残るような、でも意外と大人っぽいような気がするような。
奥川蓮伍は健の元息子だ。彼も色素性乾皮病の子供で、確か中学生。体育はあまりできていないようだ。私の石田時代は翔太朗の世話を蓮伍にしてもらっていた。翔太朗と同じで、蓮伍もA群という部類の色素性乾皮病だ。
日本ではA群とV群の二種類が多い。A群は歩行や聞き取りの困難などの神経症状を伴うもので、V群の症状は主に癌であることが多い。どちらかというと、V群の方が長生きできるらしいが・・・・・。
「僕は今、高校生なんで寿命はもう半分切ったぐらいまで来ちゃったわけっすよ。参った参った。でも、現実だから受け入れるしかないっすよね」
急に、どうしたのだろう。
「石田さん・・・・・今は何だっけ。旧姓に戻ったんですっけ。離婚したから」
「穀田になったわ」
「そうっすか。まあ、あの時代の親しみを込めて石田さんと呼ばせてもらいます。石田さんはなんで離婚を繰り返したのですか」
「えっと、それは色素性乾皮病の子供の育児が嫌になったからよ。あんたもね」
私は、別に彼みたいな病気のやつには隠す必要がないと思ってそう言った。だが、彼は信じられないほど賢かった。
「まあ、そうですよね。色素性乾皮病の子供は幼稚園児みたいなことも多いし、紫外線をカットしないといけないからめんどくさい。そして、寿命を迎えることも怖い。僕はその本人なわけだから、まあちゃんと知ってますよ。高校生にまでなると、もう寿命が少ないんだなぁとばかり思って悲しくなって夢ばっか見ちゃいますよ。でも、なっちまったもんは仕方ないから人生楽しんでいるわけ。現実ちゃんと見ているってことっす。でも、石田さんはどうっすか?」
蓮伍に問われて、私は振り返った。
(確かに、私は現実から逃げて離婚を繰り返したのかもしれない・・・・・)
賢いやつ。私は少し嫌気がさした。
「でも、いやなのは事実。逃げることは悪くない」
「確かに、逃げることは悪くないっすよ。でも、これは逃げたのではない。あんたは、翔太朗君を見捨てたんでしょう?」
「ぐっ・・・・・」
そう言われると、そうかもしれない。
「それで、育児でいろいろ苦労して、自分の思うようにならず、ストレスにばかりなった。章さんが一度お母さんに話していた。和実は翔太朗が自分の思い通りにならなくって困っている、と」
うわ、この子何。こんな色素性乾皮病の子供って賢いの。
「まあ、勉強は聴覚がダメなだけで、別に対しては困りません。・・・・・マスター、美味しかった。ちょっと和実さんを連れて行きたいんですけどいいっスか?」
「ああ、いいよ」
彼は私を断たせると、手を引いた。
「この時期に、見てほしいものがありまして」
私は蓮伍に連れられて歩き始めた。
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