第14話

 カフェに戻り、もう一服すると早足で家に帰ることにした。

 帰ると、和実はソファにバタンと倒れた。


 考えることといえば・・・・・蓮伍は見透かしているようだ。カゲロウを見せた理由も、もう分かった。

 ――翔太朗。

 そして、蓮伍自身のことだ。蓮伍は私が同居することを病気っていう理由で断ったということをもしかすると、知っているのではないだろうか。

 だから、和実に語りかけるように・・・・・。これは、考え過ぎだろうか。いや、十分あり得る。

 何より、翔太朗のこと。なぜ、翔太朗を捨てたのか。頑張る章と共に。

 そんなことを考えると無性に章と連絡を取りたくなった。でも、今の和実にそんなことをする勇気はない。だが、語らないとダメなのではないか・・・・・?

 そして、蓮伍を守ろうとした健も離婚に葬った。

 私に結婚というものはもはやできないかもしれない。すると、川辺とはどうなる? そして、松平と川辺に打ち明ける?

 様々な考えが一気に頭の中を回って、ますます疲れが大きくなってくる。


 整理して、蓮伍が一番伝えたかったものは何だ。

 蓮伍は高校生でもう寿命が短いということを知っていた。これから様々なことができなくなる。もっとも、最近は30歳まで生きる人も多いが、蓮伍は色素性乾皮病の中でも重い方だったはず。あまり長くは生きられないとか、健が一度言っていた。

 ――カゲロウは、少ししか生きられない。

 そのカゲロウのような人生の中で、彼はラストスパートを飛んでいる。命の夕刻だ。


 そんな、夕刻の蜉蝣は一人では飛べない。というよりは、飛ぶ意味がない。蓮伍によると、カゲロウは卵を産むため、つまり他のカゲロウと出会うために飛び回るのだ。そのために口と睡眠を捨てる進化をしたのだ。


 なら、今の自分はどうだろう。翔太朗が生きる意味は、何だったか。自分のため、私たちのため。そして、普通なら命を守り、受け継いでいくためだったはずだ。そんな使命を知らずのうちに託された翔太朗は、不運にも色素性乾皮病にかかり、長かったはずの人生を五分の一に縮められたのだ。そんな翔太朗を自分は見捨てた。

 ――まだまだ、希望があったはずの翔太朗。

 ――生命を天に縮められた翔太朗。

 ――それでも、懸命に生きていた翔太朗。

 翔太朗が幼稚園児みたいなのは仕方ないことなのだ。なのに、なぜ。


 和実は自分で自分を責めていた。バカな自分だ。まだまだ若いのに、そんなことして。今更悔いても始まらないが・・・・・。

 これから、どうする。とりあえず、川辺には断って、別れる。そして、章と健には・・・・・苦心して考えた末、考えがまとまった。

 ――自分は、色素性乾皮病患者を救いたい。

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