第13話

 和実は蓮伍と一緒に、川にいた。

 小さな町の川だ。何があるか、和実には全く把握できなかった。

「今から、和実さんにはあるものをお見せします。翔太朗君を思いながら見てみてくださいよ。・・・・・いや、もうすでに出て来ているな」

 蓮伍は川にかかった橋脚の元の水面をじっと見ていた。

「何がいるの。なんもいないじゃん」

「よく見ててください」

 そう言われて注意してみるが、何も分からない。蓮伍はよほど目がいいのだろうか。


「仕方ないな。下りましょう」

「え? 下りるって? 川に?」

「そうっす。それ以外に何があるんすか」

 まあ、それはそうだ。

「けど、下りるほど見せたいの?」

「そうっすけど」

 まあ、そうだよね。

「でも、下りるのは・・・・・」

「いいじゃないっすか」

「えぇ~?」

「無理っすか?」

「無理」

「マジか・・・・・」

 結局、蓮伍が川に下りて、捕ってきてくれることになった。


 蓮伍が捕ってきたのは虫だった。どこから用意してきたのか、虫かごに入れてあった。

「うわ、気持ち悪っ」

「気持ち悪いかも知れませんが、ひとまず解説しますよ?」

「いや、大丈夫・・・・・もういい」

 和実には思い当たる節があった。

「カゲロウだよね?」

「おお、正解。そう、カゲロウです」

「まあ、あんまり知らないんだけどさ、翔太朗が昆虫博物館行った時になんかずっと見てたのがカゲロウ」

「ふぅん」


「まあ、いいや。ひとまず解説しますね」

 そこから、昆虫好きなのか知らないが蓮伍の長々とした解説が続いた。カゲロウの成長、生態、身体の特徴、進化の歴史・・・・・。

「もう、寝ていい」

「ダメっす。一番肝心なとこがこれからなんで」

 肝心なところってどこだろう。終わる気配なんかまったくないけども。

「ここで、肝心なところです。先程、カゲロウには口がないと言いましたよね」

「うん、言ってた。気がする。まあ、びっくりした」

「そして、眠らなくていいということも」

「うん」

 一体、蓮伍は何が言いたいんだろう。彼の意図は全く汲み取れない。

「カゲロウの成虫の寿命はおよそ数時間と言われます」

 ――数時間。

 和実には感じるものがあった。章や健でも同じだろう。

「もっとも、幼虫時代を含めたらまだまだあるんですけど、成虫になってからが短い。大人になったどーって思ったら、すぐ死ぬ、ってわけなんです」

 ――死ぬ。


「カゲロウの漢字って、陽炎の他に、蜉蝣という書き方があります」

 蓮伍はノートに書いて見せてくれた。

「ですが、虫偏の横、浮かれてるわけでも遊んでるわけでもないのに、謎にこんなことになってるんです。おかしくないっすか?」

 ん? 何を言ってるのか? と私はここで少し戸惑ったが、そんなこと気にせずに話を進めた。


「ひとまず、ここらへんで僕は帰りますわ。宿題終わってないんで。じゃあ。なんか、考えることがあったらしっかり考えといてくださいよ~」

「バイバイ」

 蓮伍はササッと帰ってしまった。私はどうしよう。取り合えず、もう一度カフェに戻るか・・・・・?

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