第15話

 蓮伍と話をした日から五年が経った。

 和実は、かなり楽だった。肩の力を抜いて、ボランティア活動を楽しんでいる。隣の松平里香も、楽しそうにお金を集めている。

 今、和実は募金活動をしていた。あの時、松平には、真実を打ち明けることはできなかった。でも、先日ついに打ち明けると、めっちゃ叱られた。一瞬ヤバいと思ったけど、やりたいことを打ち明けると、少しなら協力してあげる、と言ってくれた。

 それから、難病患者の支援を行うNPO法人に入って、様々な活動をすることに決めた。もちろん、これまでしたことは許されない行為だろう。それでも、せめてでも償いたくなってこれをしている。


 ――川辺とは、縁を切った。

 マッチングアプリで親しくなった川辺武士は、

「もうダメになったみたい」と言って、レツラブにある「おしまい」というボタンを押した。それはつまり、自分が相手をフッたということに等しい。

 sevenのチケットは、実は運良く手に入って、見に行くことができた。そう考えると、ズルい手口だ。自分でもそう思う。そして、コンサート会場の席の中に、川辺を見つけることはできなかった。まあ、たくさんいる中から見つけるのは至難の業だが・・・・・。


 ――章には、話した。

 章の育児というのは、はっきり言ってうまくいっていないようだ。彼は仕事と育児をたった一人で両立するという苦労をしている。それに比べて、まだまだ楽な和実が翔太朗を引き取ることにした。

 再婚しようと章から話があったが、今更、そんなのはダメだろうと思って、断った。ある人にも失礼だし。

 でも、章が空いている時には一緒に育児をしようということに。また、前のような関係に戻れたら・・・・・そう思わざるを得ないが、今では難しいだろう。でも、前を向いたらありえなくもない話じゃないかと思った。


 ――健には、詫びた。

 蓮伍と会ったこと、翔太朗のこと、NPOのことなど、たくさん話した。

 健は、まだ怒っていたのかほとんど話を聞いてくれなかった気がしたが、蓮伍との関係を聞かされると少しは、怒りも収まったようだ。

 健は元の妻と再婚したらしいが、あまり詳しいことは聞けなかった。


 一人の元カレと二人の元夫。不思議な男との関係は、まだ続きそうだ。そういえば、もう一人の男はどうしているのか。健に聞いた。


 蓮伍は体の衰えがやってきたらしいが、それが予想より早いらしかった。蓮伍は本当のラストスパートをヨレヨレしながらも、懸命に飛んでいた。

 だが、その命も尽きようとしていたらしい。健にぜひと呼ばれた和実は、章や翔太朗たちと病院へ飛んでいった。


 ベットに横たわる彼に、医者は手を合わせていた。

「ご臨終です・・・・・」

 間に合わなかった。私は、彼の死に際を見ることができなかったんだ。そう考えると、涙があふれてきた。

 彼にどれだけ考えさせられたことか。どれだけ翔太朗が世話になったことか。

「和実、蓮伍から和実への遺言があった。『僕はエネルギーを使い果たして、自分というパートナーに出会って死ぬことができました。和実さんは、しっかり活動されているようで、嬉しいです。あの日の話、覚えておられますか?僕は飛行を終えたので、残りは翔太朗君に託します・・・・・』って」

 遺言に、涙があふれてきた。健や章は何を言ってるのか分かっていないようだが、私にはわかる。蓮伍の生きざまは、絶対に翔太朗に引き継がせるのだ。翔太朗の人生はまだある。蓮伍より、絶対長生きさせてやる。


 夕刻の蜉蝣は、飛行を終えた。次に出る蜉蝣に、襷はつながれていった。

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夕刻の蜉蝣 DITinoue(上楽竜文) @ditinoue555

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