第9話

 川辺武士と呼ばれた男性の容姿を和実は注意深く観察する。背は低い方で、顎髭がまあまあ生えている。髪型はツーブロックにワイルドな束感ショート。筋肉質で、足と腕には毛が深く生えている。ごつい顔ではあるが、笑顔がキラキラしていて、カッコいい男であった。

(これが・・・・・川辺の善い男?)

 和実は目の前に実際に現れた川辺に見入ってしまった。


「あれ?どうした?武士に惚れた?」

「え?ああ、いやなんでもないです」

「ならいいけど」

 そう言って、松平はクスッと笑った。見透かされてるのか。

「じゃあ、二人にしてあげようか」

「いや、いい。これから仕事あるだろ?」

「そっか。でも、たまには・・・・・」

「いい」

「はいはい」

 ナイス、川辺・・・・・。


「ところで、こちらの女性とはどういうお付き合い?」

「ああ、この人・・・・・石田和実さんは息子の翔太朗君が立難に通ってるの。翔太朗君は色素性乾皮病で。その主治医に私がなった付き合いがあるの」

「そうか、そうだった。里香は色素性乾皮病を研究してたな」

「そうそう」


 ところで、私は気になったことがあった。やけに親しげなこの二人が気になったのだ。

「ところで、お二人はどのような関係なのですか?」

「どういう関係って?」

「えっと、恋人づきあいとかあるのかなって・・・・・」

「あら。そんなわけないじゃない。彼は結構傲慢だから神経質な私はとても耐えられない」

「ただ、医者友達としてはめっちゃ仲いいんだよな。結構飯行くし。こいつ元々看護師で。まあ、それで俺の診療の時に手伝ってくれたことがあって。それで仲良くなったんだが」

 へぇ、松平が元々看護師だったということは初めて知った。


 で、看護師から医師に転職するというのは一応、可能らしいがかなり道は難関らしい。それでも、松平は転職したいと一緒に患者に向き合っていた川辺に相談し、医師を目指したそうだ。途中で何度も挫折したらしいが、川辺がそのたびに喝を入れてくれ、どうにか合格して医師になったそうだ。それからも頻繁に会って資料交換をしたり、ご飯を食べに行ったりした仲らしい。


「でも、恋人ってなるとちょっとなぁ・・・・・」

「だよね」

 なるほど、この繊細で神経質な松平と傲慢で大声の川辺が折り合うことは確かに無さそうだ。

「実際、俺最近マッチングアプリ初めてさ。それで今付き合ってる人いるの」

 ドキッと来た。うわ、それを思い出されたら声とかでバレてしまうのでは・・・・・?

「へぇ、それは知らなかった。なんていうアプリでやってんの?」

「Let's go to love」

「え?!レツラブって聞いたことあるけど学生のやつじゃないの?!」

「いや、一応何歳でも行ける」

「じゃあ、私も登録しようかな」

「おい、それは浮気だろ?」

「そっか」

 本当に、兄妹のような恋人のような会話が面白いけど、同時になぜか不快感が生まれていた。

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