第8話 (最終話) 元の浜は何処へ…
…一気に50歳の年齢が加わり、爺さんの姿になってしまった浦島太郎は、いつもつるんでいた友だちを探そうとして、よろよろと歩き始めた。
とりあえず浜からコンクリート護岸の端に付けられていた階段を上がり、舗装された海岸通りに出る。
歩道の電柱に表示された地名には「亀怪ヶ浜」という文字があった。
車道では、ハイブリッドエンジンの乗用車が、目の前をかなりのスピードで連なって走り抜けて行く。
通りから海を見ると、浜の沖、200メートルくらいの海面にテトラポットを積んだ壁が所々設置されていた。
「…本当にここは日本の海なのか?」
浦島太郎は 周りの風景を見て、悲しさと孤独感が胸に込み上げてくるのを感じていた。…もはやつるんでいた友だちと再会するのも絶望的なことと覚り始めていた。
「お爺ちゃん、どうしたの? 迷子?」
その時、ランドセルを背負った学校帰りらしき子供たちが数人、声をかけて来た。
「あ、あぁ、…そうだな、今俺は迷子になっているんだ、俺の名前は浦島太郎、君たちはこの辺の住民か !? …ここはなぜ"亀怪ヶ浜"というんだい?」
「あ、え~と、何か昔、若い漁師が怪しい亀に騙されて、海の向こうに連れてかれたっていう伝説があって、それで"亀怪ヶ浜"って地名になったんだって ! 」
「そう、それで僕たち、浜で亀を見つけても、絶対に近づくな ! って学校から厳しく言われてるの ! 」
「私のお爺ちゃんはね、"海ガメに化けたロシアの工作員が、若者を拉致して連行したんだって、きっとシベリアの抑留地で奴隷にしてる、たぶん若者は非業の死を遂げたに違いない"って言ってた ! 」
子供たちは口々にそう話し、さすがに能天気な浦島太郎にも、何となく事態が分かって来た。
「そうか…ありがとう君たち、気を付けて家に帰るんだよ、友だちと仲良くな ! 」
浦島太郎は目にうっすら涙を浮かべながら子供たちに言った。
「うん、お爺ちゃんは大丈夫?…迷子になったんなら、交番に行かないと ! 」
「…俺は、大丈夫だ、あと…それから」
「え、何?」
「亀は別に悪い奴じゃないよ ! 」
「…お爺ちゃん、プーチンに騙されてるんじゃないの?」
「いや、そんなことは無い、俺はまた苛められてる亀を見たら、きっと助けに行くだろう、そしたらまた良いことがきっとあるさ、俺は浦島太郎だからな ! 」
…子供たちは全員で手のひらを上に向け、肩をすくめた。
「じゃあお爺ちゃん、さよなら~、自分のお家、見つかると良いね ! 」
そう言って子供たちが去って行くのを浦島太郎はいつまでも手を振って見送った。
…しかしその後、浦島太郎の姿を見た者は誰もいなかった…。
………………………………………………
ところが!
数ヶ月後、亀怪ヶ浜の海岸に、浦島太郎が記した体験手記のノートが見つかった。
まるでSF小説のようなその手記は、地元でちょっとしたニュースになり、その話題に中堅の出版社が目を付けて、その内容は絵本や文庫本になった。
そしてそれは異世界転生ファンタジー好きなラノベ読者を中心に、多くの日本人の心を掴んで大人気となって行った。(さらに浦島太郎の体験譚は歌にもなった ! )
そして浦島太郎の物語は、いつまでも後世に残る、伝説のお話となって行ったのである。
SF小説 しん 浦島太郎
おしまいおしま~い !
SF小説 しん 浦島太郎 森緒 源 @mojikun
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます