第6話 浦島太郎…号泣 !

 …リューグ城の店内は、オト・ヒメが不在ながらも、主役の「ラッシー」を中心に、良い感じで盛り上がっていた。

「ねぇねぇっ、そう言えばぁ、実はラッシーってお歌が上手でぇ、釣りをしながら海に向かって歌ってるって聞いたんだけどぉ…ホント?」

 タイちゃんが浦島太郎にビールを注ぎながらクネクネと言った。

「あぁ、何かね、1人で海を見てると自然に歌を口ずさんじゃうんだよね」

 ラッシーが答える。

「ステキ~ ! …じゃあここでぇ、みんなにぃ、歌って ! ラッシー!」

 ヒラメちゃんの言葉で店内のみんなから勝手に拍手が沸き起こる。

 …みんなに煽られて、浦島太郎ははにかみながらも、いつも海に向かって歌うように声を上げていつもの歌を口ずさんだ。


 お姉ちゃんたちは浦島太郎の歌声を静かに聴きながら、一様に同じ思いを感じた。

(…別に大して歌うまくないじゃん!)

 しかしそんな感想は口に出さずに、じっと笑顔で聴いていると、何と歌っている浦島太郎の頬をスルスルと涙が伝い始めた。

「どうしたの?…ラッシー ! 」

 みんなは心配して浦島太郎の顔を覗き込む。

「…ご馳走食って、ビール飲んで、お姉ちゃんたちにチヤホヤもてなされて、楽しいはずなのに…ここにはいつもつるんでる友だちもいないし、ここの海は魚も釣れない…今ここに、キ…赤い服のあいつが一緒に居たら、もっともっと楽しくて、面白いのに…あいつを時々ウザいって、本当はそんなこと俺はちっとも思ってないんだ!友だちや仲間がいないことが…こんなに寂しいことだなんて…いつもの浜に帰りたいよ~っ!」

 …そして浦島太郎は号泣した。

(何こいつ、デカい図体したいい大人なのに今ここでホームシックになって泣くのかよ~!)

 店のお姉ちゃんたちは皆、胸中でドン引きしていた。

 そして号泣する浦島太郎から少し距離を取り、両手のひらを上に向けて肩をすくめたのであった。


 するとその時、王妃との極秘会談を終えたオト・ヒメがお店に駆け付けて来た。

「あっ、オーナー!…おはようございます」

 お姉ちゃんたちが一斉にオト・ヒメに挨拶する。

 しかしオト・ヒメは店に入るなり、号泣している浦島太郎の姿に驚いた。

「ラッシー!…どうしちゃったの?」

 思わず白キスにコソッと訊くと、

「いつも歌ってる海の歌を歌ってたら、急にホームシックになったらしくて、自分のいつもの浜に帰りたいって言い出して…」

 白キスの答えにオト・ヒメは心中で叫んでいた。

(ラッキー !! …ナイスな展開じゃん、サッサとこいつを地球に帰してハッピーエンド ! チャンチャン !! 見えたぜっ)

 …という訳で、オト・ヒメは浦島太郎のとなりに座ると、天女のように優しく慈悲あふれる表情で言った。

「分かったわ、浦島太郎さん…朝になったら港に舟を用意するから、自分の浜に帰りなさい…でも、帰っても私たちのこと忘れないでいてね ! …」

「ぴえ~ん、乙姫さま~、ぴえ~ん ! 」

 ラッシーはその後、閉店時刻まで泣き続けた…。


 さて、リューグ城閉店後、オト・ヒメはさっそく王宮内会話室に赴き、ウンミガメ係官を呼び出した。


「…って訳だからさぁ、あのサンプルもう要らねぇんだわ ! サクッと地球に送り帰しちゃってくんね?」

 オト・ヒメの話にウンミガメは当惑しながら応える。

「うっわ!ひっで!…まぁでも話は分かりましたよ、う~ん…」

「何だよ?…難しいことなのか?」

「いや、送り帰すのは簡単なんスけど…ちょっと気になることが一つ…」

「はぁ?…言ってみろよそれよ ! 」

「宇宙の星ってのはそれぞれの物理法則にのっとって存在してるんスよ」

「ちょっと何言ってるか分かんないです」

「つまり、地球には地球の物理法則があって、地球では光より速いものって存在しないんスよ!」

「だから何?…誰が言ったんだよそれ?」

「確か…アイ~ンシタインとかいう地球の学者っスね」

「何かどっかのバカ殿みたいな名前じゃね~かよ!信用できんのかソイツ ! 」

「いや、けっこう天才スよこいつ ! 」

「そっ!…で、気になるってのは?」

「地球とリューグ星って、25光年の距離があるんスよ、光の速さで25年かかるンス ! …地球の物理法則だと、浦島太郎がここにいるってことは、どんな移動手段をとったにせよ、地球じゃ25年の時間が経ってるってことなんスよ!…奴を送り帰すってなると、奴が戻った地球は往復分、50年後の地球になってる訳なんス ! …さらに言えば、奴が地球に降り立った瞬間、奴の身体も地球の物理法則にのっとり、50歳年をとることになります」

「…急にお前、ずいぶん難しい理屈こねるじゃん !? 」

「だってこの話、筆者がタイトルに"SF小説"って謳ってるんスからしょうが無いっス!…一応科学っぽいセリフ入れとかないと」

「は~ ! …面倒くせ~なぁおい!」

 思わずオト・ヒメが苦笑いを浮かべた。



 もう早く話を終わらせたいが…続く

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