第7話 浦島太郎、帰還
夜が明け、リューグ星の港町に朝が訪れた。
…波止場の岸壁には、浦島太郎とオト・ヒメ、そしてウンミガメ係官の姿があった。
そして下の海面には、岸壁からのタラップが付けられた小さな舟が浮かんでいた。
「…乙姫さま、本当にお世話になりました ! …竜宮城、楽しかったです、乙姫さまや"舞い踊り隊"のみんなからの、全く裏表の無い優しさやおもてなし、俺は絶対に忘れません !! 」
「私の方こそ、か弱いカメを助ける勇気や男気、心に沁みる素敵な海の歌を聞かせてくれたあなたのことは忘れないわ!」
浦島太郎とオト・ヒメの別れの言葉の後、ウンミガメ係官が一応目の前の舟について簡単に説明した。
「あ、この舟はですね、重箱みたいな四角い形してますけど、とりあえず乗って頂いて、"タマテバ号発進 !! "て言えば勝手に進んで元の浜に行きますから!…あ、タマテバ号ってのはこの舟の名前です、以上です ! 」
「あれ?…何かあんたの声、聞き覚えがあるような気がするんだよなぁ !? …」
浦島太郎の呟きに、ウンミガメが焦る。
(何だコイツ ! …能天気なのに変なとこスルドイじゃん !! )
「いや~ハハハ、似た声質の奴なんて宇宙にゃ百万人くらい居ますよ!…さぁもう舟に乗って下さい、浦島さま」
…ということで浦島太郎はタラップを降りて、タマテバ号に乗り込む。
舟のハッチは重箱のフタみたいな形の透明な特殊ガラスになっていて、90度の垂直な形に開いていた。
…ウンミガメ係官がタラップを外し、いよいよ出航、別れの時が来た。
「玉手箱、発進 !! 」
浦島太郎の声に反応し、舟は薄霧けむる海の沖へと動き出す。
岸壁には、舟に向かって手を振るオト・ヒメの姿…。
浦島太郎の脳裏には、瞬間に竜宮城での楽しかった至福の宴のシーンがフラッシュバックして来た。
「ヒメ~~~~っ !! 」
思わず岸壁に向かって叫んだその声は、しかし波止場に出入りする船舶の「ヴォーーーッ!」という汽笛にかき消され、同時にオト・ヒメは大きな音に耳を塞いでいた。
…そして沖に出たタマテバ号のガラスハッチはパタンと閉まり、舟の内部にシュラシュシュシュ~と催眠ガスが吹き出て、浦島太郎はコロンと横になった。
すると周囲の海や港の景色は一瞬にして消え失せ、王宮内のスターシップポートの実際の現場が出現、タマテバ号の底の四隅からツィー ! とジェット噴射口が舟を持ち上げるように出てきて、ジェットブローファイヤーが吹き出し、タマテバ号は空中に浮遊した。
そしてブロー角度を変えると、舟はくるくると回転しながらさらに上昇、王宮を覆うガラスドームが、チー ! とスライドして開くと、舟はその間から上空へと進み、さらに大気圏を突き抜けて宇宙空間へと消えて行った。
「それにしても、"タマテバ号"って名前、ダサ過ぎだろ? ウンミガメよぉ!」
…浦島太郎が消えてから王女が係官に言った。
「いや~俺、学生の頃、宇宙放浪ひとり旅にハマッてて、実は地球に行ったことあるんスよ、で、日本の僻地で食った"玉コンニャク"と"手羽焼き"がめっちゃ旨かったんで、タマテバ号って名前にしてみました!」
「お前も地球人並みに単純だな…」
そして2人で上を見上げて笑った。
…浦島太郎がハッ!と目覚めると、玉手箱は海岸に打ち上げられていて、背後からの波が舟体に当たって、チャプンチャプンと音と飛沫を上げていた。
「…ここは…元の浜なのか?」
浦島太郎は訝しげに周りを見回すと、浜の向こうにはコンクリートの護岸が続いていて、その上を自動車が左右に行き交っているのが見えた。
「何だか…全然前と様子が違うぞ ! …どうなってるんだ?…だけど、乙姫さまは元の海に戻してくれると確かに言ってた!…間違いなくここは元の浜のはずだ、俺が竜宮城に行ってた2~3日の間に変わってしまったのか?」
浦島太郎は外の景色を見て大いに戸惑いながらも、玉手箱のハッチを開けて舟から出ようとした。
下に目を移すと、足元にハッチ開閉ボタンがあり、「開」のボタンを指先で押すと、いきなり「ボワーン!」と大きな音と白煙が舟を包み、ハッチが垂直に開いた。
実はこの瞬間にリューグ星と地球の間の「物理法則の差」が一気に修正され、衝撃波と白煙が発生したのだ。
ジェット機が音速の壁を越える際に衝撃波と白雲が発生するのと同じ現象である。
そして浦島太郎は急に身体が重くなり関節が固くなったような感覚に支配された。
よろめきながら玉手箱の外に出て、ふらふらと浜を歩き、ちょっとした岩場の潮溜まりを見つけて水に自分の姿を映して見れば、そこに居たのはすっかり白髪となったシワ枯れ顔の爺さんだった。
次回、いよいよ最終回へと…続く
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