第4話 タイやヒラメの舞い踊り
…目覚めると、辺りはすっかり夜になっていて、どこかの港町だろうか、うっすらと夜霧にむせぶ波止場から、「ヴォーーーッ ! 」
と霧笛の音が聞こえて来た。
「…俺は…海ガメくんの背に乗って…急に眠くなって…あれ、ここは、どこだろう?」
よろよろ起き上がると、どうやら倒れていた場所は海岸通りか、目の前は波音がざわめく海、後ろはネオンの灯りが連なる妖しくも魅惑的な大小の店を構える建物が並んでいた。
「…綺麗なところだなぁ、海ガメくんの言ってたキャバクラはどれなんだろう?」
思わずそう呟くと、背後で車のクラクションが鳴り、振り向くと1人の女性が立っていた。
車のヘッドライトの逆光の中、表情は影に隠れ分からないが、佇まいだけでも充分に"イカシた女"であることが伺える。
そしてすぐに車は女を残して走り去り、薄霧けむる港町の灯りがほのかに女の顔を照らし出した。
「……… !! 」
あまりにも綺麗な美女の出現に言葉を失っていると、女は柔らかな笑顔を浮かべて近寄って来た。
「…浦島太郎さんね !? 」
「えっ、ぇと、はいそうです!…日本から来ました」
「ふふっ ! …噂通り、海が似合う男ねアナタ…私はオト・ヒメ、そこのキャバクラのオーナーなの ! …今夜はアナタをおもてなしするように言われてるの、…さぁ、行きましょ!」
そう言って女は浦島太郎の手を取り、通りを渡ってひときわきらびやかなネオンに飾られた建物の前に立ち止まると、顔を近付けて浦島太郎に耳打ちした。
「…そのセリフを俺に言えと !? 」
「ええ、オーナーからのサプライズよ!…さぁどうぞ~ !! 」
浦島太郎は、ドキドキしながら叫んだ。
「よぉ、浦島太郎が来たぜ!」
すると、目の前の建物の扉が開いて、白いキラキラドレスの若いお姉ちゃんたちがゾロゾロ出て来た。
そして横一列に並ぶと、
「海のお兄ちゃん、待ってたわよ!」
と笑顔で叫んだ後、わらわらと散って浦島太郎の両腕を取り、1人は後ろから背中を押して、お店の中になだれ込むようにして全員で入って行った。
賢明なる読者の方々であればすでにお気付きかと思うが、実は浦島太郎はすでにリューグ星に連れて来られており、たった今、ヒメ王女との出逢いを果たしたところなのだ。…したがってここは実際には王宮内のホールの中、登場している人物以外は全てウンミガメ係官が映し出している超リアル3D仮想映像空間である。
…淡いブルーの、シックな店内に入った浦島太郎はキラキラした若い美女たちに囲まれながら席に着いた。
当然ながら他に客はいない。今夜は浦島太郎の貸し切りなのである。
…目の前のテーブルには、お姉ちゃんたちが皿にご馳走を乗せて運んで来る。
「オト・ヒメオーナーのお手製料理です、召し上がれ」
お姉ちゃんの言葉にニッコリ微笑むオト・ヒメだったが、もちろんこれは嘘で、実際は王室係官らに命じて作らせた物である。しかし、
「ご馳走は嬉しいけど、まずはビールを一杯飲みたいな ! 」
浦島太郎がそう言って、お姉ちゃんはジョッキに入った生ビールを急いで持って来た。
「あ~~~っ!…うんま~~~い !! 」
まるで大根役者の大袈裟な演技みたいに叫んでビールを飲む浦島太郎。…それを一瞬チラッと冷めた目で見たオト・ヒメはすぐに笑顔に戻って言った。
「さぁみんな、今夜は浦島太郎さんの歓迎パーティーよ!…まずは楽しいショータイム、みんなひとこと自己紹介しながら舞い踊っちゃってちょうだいっ! 」
「は~~い!」
お姉ちゃんたちがテーブル向こうのミニステージに揃った。
「ようこそ!浦島太郎さん !! …今夜は私たちのショーをご覧頂き、盛り上がっちゃって下さいねっ!声援もよろしくお願いします!」
「よっ!良いねぇ、俺もうハートが爆死しそうだぜっ !! 」
「じゃあ始めよ~!、私は愛でたいピンクのお肌、タイちゃんで~す!」
「うわっ!! キュン死~っ!」
「ヒラメちゃんで~す!特技は寄り目で~す!」
「可愛い~っ!」
「白キスで~す!…ん~投げキッス !! 」
「 てんてんてんてん…クリティカル Hit !! 」
「エビちゃんで~す!」
「…じつはトウが立ってるな !? 」
「私たちみんなで、リューグ城舞い踊り隊で~す !! 」
「待ってました~っ !! 」
という訳で、浦島太郎至福の宴が始まったのであった。
もはや続くしかなくて続く
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