滑稽なほどに切なく愛おしい、行き違う人の心の生々しさを切り取った幻想譚

SFと書いて『センチメンタル・ファニー』と読む、その造語がこれ以上なく腑に落ちる物語だと感じました。
銀河の最果てたる惑星缶詰循環工場にめぐり着いた男が、そこの責任者である博士に〈星語り〉を聞かせるという体裁で綴られていく、連作短編集です。

物語を通して、宮沢賢治の作品のオマージュがそこかしこに散りばめられています。
しかし〈星語り〉にはどれもオリジナリティがあり、その登場人物だからこその唯一無二の感傷が描き出されていきます。

些細なことで行き違ってしまう人と人との心。
ちょっとした運命のいたずらで二度と戻らなくなってしまった関係性。
きっと誰しも、幸せを、愛を求めていただけなのに、誰のせいでもなく一生消えない傷を負ってしまう。
幻想的なのに生々しい。
まるで心の一番痛いところを攫っていくような筆致が、深い共感を誘います。

脈絡なく綴られていた〈星語り〉が、終盤、繋がって収束していく展開がお見事。
過去の消せない哀しみを内包したまま、新しい運命が巡っていく。苦しくも愛おしく、温かな読後感に涙が出ました。
静謐と綴られる、心を震わす情動に満ちた物語です。素晴らしかったです!

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