我等、はみだしテイカーズ5!~怪盗ウォッカと黒いニクスバーン~
えいみー
プロローグ/前回のあらすじ
ある、タワービルについて。
ある資産家が自らの富と権力を誇示するかのように建設したそのビルは、高さ150mの超高層タワーだ。
当然ながら屋上には強風が吹き荒れ、飛び降りる事など到底できない。
夜になれば美しい夜景を見せ、現地の恋人達のデートスポットとして人気を博す。
その事件も、そんな美しい夜景を見せている時に起きた。
「動くな!!」
「それ」は、そんな屋上へと逃げ込んだ。
逃げ場のない場所に追い詰められた「それ」に、警備員の持つ魔力銃が突きつけられ、
ビルの周囲を飛行していたヘリのライトが、スポットライトのように当てられた。
………そこで明らかになったが、「それ」はなんと女だった。
ホルターネック式のコルセットで強調された膨らんだ胸と、小さな肩幅がそれを物語っていた。
少なくとも、詰め物をした超絶美形の男というワケでは無さそうだ。
「年貢の納め時だな!怪盗ウォッカ!!」
警備員達の先頭に出た、年老いた男が叫んだ。
彼は警察から出向してきた刑事であり、目的は勿論、彼女の逮捕だ。
さて、「怪盗ウォッカ」と呼ばれた彼女が警備員、そして法の使者たる警察に追い回されている理由は、名前から察する通り単純明快だ。
彼女の左手に握られているのは、ある記録メモリ。
そこには、このビルの
怪盗ウォッカは、それを盗み出したのだ。
だが、ご丁寧にも犯行予告を事前にネットに公開していたが為に、持ち主が配置していた警備員達に追い回される事となり、今に至る。
「………少しいいかい?刑事さん」
「ダメだ!言い訳なら取調室でじっくり聞いてやる!」
「じゃあ、勝手に語らせて貰うよ」
怪盗ウォッカは、どこぞの歌劇団の男役を連想させる、どこかキザで気取った口調で、自身を取り囲む警備員達を前に口を開いた。
「このビルの夜景は、何時まで続いていると思う?」
「何だ、いきなり………」
「答えは、大体朝の5時………街頭が消える時間だ、それが何を意味しているか解るかい?」
一部の警備員は、無知さ故に質問の意図を理解できずにいた。
が、残りの警備員………そして刑事は、彼女が言いたい事を理解できた。
何故なら、彼らもまた、その「夜景」を作る当事者だからだ。
「それはね、このビルは家に帰る事なく、夜中所か一日中寝ずに働いている人が大勢いる………休みも与えられる事なく、年中無休の電気代を維持する余裕が会社に残る程の………低い低いお給料でね」
そんな話は、皆が聞いていた。
このビルの持ち主………その持ち主が代表を務める、このビルを保有する企業は、大企業であると同時に法外な低賃金と
ネットを見てみれば、生活もできぬ低賃金に喘ぐ声や、会社への怒りの声がいくつも見られる。
「君達の使命はなんだい?犯罪から市民を守る事じゃあないか、それなのに君達は企業や金持ちには知らんぷり………だから、私みたいな義賊が動く事になるんだよ」
怪盗ウォッカは、眼前の警備員や警察を嗤って皮肉った。
彼女の言う通り、資産家=資本を武器にする相手を前に、金を人質に取られた国家権力は動く事すらできずにいた。
裁判すら金と権力で握りつぶす相手を前に、正攻法しか使えない彼等は、使い潰しにされる国民を見ている事しかできない。
それを討つには非正攻の方法を………怪盗ウォッカのような、犯罪という手段を使うしか、道はなかった。
「ボクが盗んだメモリのデータ………ここ一年の監視カメラの映像や、社員の出勤情報、お給料の支払い等を記した「修正前」のデータを流せば、状況は一変する………ネットの海に流れ出た物は回収のし様がないからね」
怪盗ウォッカが持っているのは、そんな企業の弱点とも言える、企業運営の状況を記したデータ。
政府に出す際に、企業に都合のいい「修正」がされる前の、様々な違法労働の証拠となるデータだ。
これが大衆の目に晒される事となれば、流石の国も動く事となり、
「………お前の言いたい事は、わかった」
刑事のその言葉に、嘘はなかった。
実際、新卒である会社に入社した彼の娘も、セクハラとパワハラで精神を病み「助けて」と泣きながら自分に電話してきた。
「だがな………お前にどんな正義があろうと、この国では司法が正義だ、
だが同時に、彼は市民を守る警察官でもあった。
国が定めた司法と、それにより国民が守られる事で平和が成り立っている以上、法を破る者にはいかなる例外も許されない。
それが、彼を突き動かす………そして、彼が彼女に手錠をかける、最後の理由だった。
「………だから、さ」
しかし、彼は心のどこかで願っていた。
怪盗ウォッカが追っ手を交わし、この
「その正義では、守りきれないものがあるから………私がいるのさ!」
「あっ!」
そんな彼の想いに答えるように、怪盗ウォッカはトントンとステップを踏み、なんとビルから飛び降りた。
自棄を起こしたか。
そんな考えが過った彼等は前で、その怪盗ウォッカの「ショウ」が幕を開ける。
………ずおおおおっ!!
突如、警備員や警察官達を襲う強烈な上昇気流!
身を屈める彼等と、バランスを崩したヘリの前で、その正体は明かされた。
月明かりにキラリと輝いたそれは、なんと戦闘機。
近くに軍事基地もなく、ヘリのセンサーにも反応がなかったのに、何の前触れもなく突然現れた戦闘機。
「
そのコックピットで笑う怪盗ウォッカを、確かに刑事は見た。
そして轟音と共に、怪盗ウォッカを乗せた戦闘機は、超音速で夜の空へと消えて行く。
彼女を追跡する手段は、もはや無かった。
………………
西暦1999年。
かの、ノストラダムスの予言は当たった。
突如、地球全土を覆った謎のオーロラと、磁気嵐。
それは、地球の衛星軌道上に出現した「穴」………時空の裂け目とでも言える場所から、地球に広がった「
後に「アンゴルモア・ショック」と呼ばれる大異変。
それにより、地球は変貌した。
魔力と共に地球に現れた、「モンスター」と俗称される、異世界を由来とする狂暴な不明生物達。
魔力による汚染により、異世界の環境が再現されてしまった領域「ダンジョン」。
突如現れた恐るべき「敵」により、多くの人々が犠牲になり、人類は危機に立たされた。
だが、もたらされたのは「敵」ばかりではなかった。
それから一年して、いくつかのモンスターのように、魔力を自らの力「魔法」として行使する人間が現れだしたのだ。
それはやがて人類全体に広がり、モンスターに対する対抗策として重宝された。
モンスターへの対抗策が生まれると同時に、様々な事が明らかになってきた。
それは魔力が、ダンジョン発生の媒体になる汚染物質や、魔法という超能力の元という以外に、
使い用によっては石油や原子力をも上回る、新しいエネルギー資源としての側面を持っていた事。
やがて、モンスターの討伐やダンジョンの調査。
ダンジョン内部に発生した、様々な資源の採掘を生業にする人々が現れた。
かつてのファンタジーRPGの勇者達のような活躍を見せる彼等は、いつしか「ダンジョンテイカー」………略して「テイカー」とも呼ばれるようになった。
それに続くように、テイカーの育成の為の機関や、専用の武器や防具を作る会社も生まれた。
やがて、世界の危機はイベントと仕事に変わった。
いくつかの危険度の低いダンジョンは、テイカー入門の為の訓練所や、テイカーを疑似体験する為のベンチャー施設に変わった。
恐れられていたモンスター達も何種類かは捕獲され、動物園や水族館で………厳重な注意の元ではあるが、見る事が出来る。
テイカー達も、トップクラスの者達はロックミュージシャンやトップアスリート並みの人気を博し、称賛を浴びた。
世界がモンスターに、ダンジョンに、テイカー達に熱狂していた。
………こういう物が一番好きそうな、ある国を除いて。
………………
ダンジョン巡りの旅の最中、アズマとスカーレットのはみだしテイカーズは「
その、町中に張られた行方不明者捜索の手配書を前に不気味さを感じる二人であったが、町で出会った漫画家「
曰く、八尺坂には妖怪伝説があり、行方不明事件は妖怪が引き起こしているのではないか?という話。
その妖怪伝説の取材に来たというコハルは、二人を護衛として雇うと、妖怪がいるという八尺坂洞窟へと向かった。
ダンジョンとなった洞窟内ではみだしテイカーズと、またテイカーの技術を持っていたコハルは、調査の果てに未知の領域に踏み込み、そしてアズマが消えてしまった。
アズマを探すスカーレットとコハルの前に、事件の黒幕が現れる。
そこに居たのは、その八尺坂の妖怪。
その正体は、未知のモンスター・エルフであった。
エルフとの激闘の果て、アズマと再会したスカーレットは真実を知る。
確かに、行方不明事件を起こしていたのはエルフであった。
だがエルフは、今の社会に居場所のない者、生きてゆけない者を集め、保護していたのだ。
エルフに誘拐されていたのは、そんな、スカーレットやアズマと同じ「はみだし者」だった。
それを知っては、退治はできない。
三人は、この事を誰にも話さない約束を立てると、各々の目的の為に八尺坂を後にした。
………きっと、エルフはこれからも苦しむ人々を
けれどもそれは、もう三人の内の誰にも関係のない話である。
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