第11話

こんな事態になっても、配信用ドローンは充電の続く限りは飛び続け、AIに従ってその時の最高の取れ高を追い求める。

故に怪盗ウォッカは、今コックピットに座る自分が乗っている物がどんな姿かを、手元の携帯電話スマートフォンを介して見るネット配信で知る事ができた。



「ははは、ここまで来るとまさにマンガだねぇ」



マンガという例えには語弊はあるが、フィクションの産物が現実に現れたというシチュエーションという意味では正しい。

正義のスーパーロボット・ニクスバーンの姿をコピーした、黒いボディのニセ・ニクスバーン。

完全に、よくある特撮ヒーローやロボットアニメのそれである。

まあ、それこそマンガの怪盗のような事を散々やっている怪盗ウォッカには、丁度いい機体だろう。


ドッペルゲンガーの能力は怪盗ウォッカが一番理解はしていたが、前例のない物をコピーできるかどうかは不安であった。

しかし操縦棹と、コピーした脳波操縦システムを通じて伝わってくるパワーが、これが本物に勝るとも劣らない機体である事を伝えてくる。



「さしずめ、「ブラックニクスバーン」………とでも名付けようか」



マンガのようなロボットには、マンガのような名前がふさわしい。

「ブラックニクスバーン」という名前を頂いた黒いスーパーロボットは、よろよろと立ち上がったオリジナルのニクスバーンと対峙する。


ネバーランドの電飾と照明に照らされた中、テトラグループ本社ビルを挟んで対峙する、ニクスバーンとブラックニクスバーン。

その姿も、まるでロボットアニメのオープニングにて、地球をバックに月面で対峙するヒーローロボットと敵ロボットの構図を思わせる。



「まだ人が………何で避難しないんだ!?」



そして眼下に群がるネバーランドの客を見て、アズマはその非常識さに驚いた。


50mもある巨大ロボットである、ニクスバーンとブラックニクスバーンが対峙しているのだ。

怪盗ウォッカの采配にもよるが、仮に両者が戦いを始めた場合、近くにいるのは危険である。

それぐらい、考えなくとも解るハズだ。

それなのに。



「おおすげぇ!ダンガムだ!」

「ネヴァンダリオンじゃん!」

「写真写真!」

「きゃははは!」



どうやら客達はこれを何かのイベントだと思っているらしく、携帯電話スマートフォン片手に二体のロボットを撮影したり、自撮りしたりとキャピキャピ騒いでいる。

テトラグループ本社ビル、そして周囲の街路樹やモニュメントが破壊されている様を見ても、これが本物の戦闘である事に気付いていない。



『皆さん危険です!下がってください!』

「おおー!すげー!臨場感あるー!」



アズマが呼び掛けようと、客達は言う事を聞かない。

それ所か、それすらイベントの演出だと思い込み、喜んでいる。



『無駄だよアズマくん、こいつらに何を言っても』



そんなアズマを嘲笑うかのように、ブラックニクスバーンから響く怪盗ウォッカの嘲り。



『このネバーランドの安い入場料が、従業員を奴隷にする事で作られてれている事にも気付かないバカ共が、ヒーローショーと本物の戦闘の違いに気づくワケがないだろう?』



眼下ではしゃいでいる客達を前に、アズマは反論できなかった。

世の中には、それまでどうやって生きてきたか解らないような頭の悪い人間がいる事はアズマも知っていたが、彼等はその代表とも言えた。



『目先の楽しさとメッキの美しさにばかり目を向け、その下を支える土台が崩れ始めている事にすら気づかず、挙げ句の果てには社会を動かす選挙の投票よりもパンケーキを選ぶような下等な連中さ』



悪い意味で有名になったワイドショーのインタビューの一幕を引用してみせた怪盗ウォッカからしても、彼等を見ていると腹が立った。


この、さも自分達が善良な一般市民のような面をして、そのリアルが充実した生活の為に下の人間を無意識に踏みつける様が、彼女の祖国の人間と被って見えたからだ。

うわべだけの豊かさに酔いしれた、上流階級の人間達。

それが犠牲の元で成り立つ事も、それが自分達の首を絞めている事にも、興味がないからと知ろうともしない。



『だから別に………死んでも構わんだろう?』

『ッ!!』



怪盗ウォッカが放った言葉の意味は、アズマにはすぐに理解できた。

ブラックニクスバーンの肩が、怪盗ウォッカの憎しみの脳波を読み取り、展開する。



『フェザーミサイルッッ!!』



どしゅうううっ!!

と、ブラックニクスバーンの肩から、オリジナルと同じ方式で放たれるフェザーミサイル。

それは眼前のニクスバーンではなく、戦いを観戦していた愚かな客達に襲いかかった!



『危ない!』



咄嗟に、ニクスバーンが飛び込む。

客達に向けて飛んだミサイルは、盾となったニクスバーンに全て命中。

大爆発を起こした!



「お………おい………これマジモンの戦闘だぞ!!」

「キャアアアアア!!」



至近距離で起きた爆発と、飛来する砕けたコンクリートを見て、この愚かな客達はようやく、これがイベントではなく本物の戦闘である事に気づいた。

そして、パニックを起こしながら蜘蛛の子を散らすように逃げてゆく。


その中で倒れた客が顔を蹴飛ばされ、投げ捨てられたポップコーンが踏みつけられる中、立ち上がったニクスバーンはブラックニクスバーンを睨み付ける。



『たしかに………あなたの言う事は全て否定はできない………!』



本当なら、アズマもテレビやネット配信で見るお面ライダーリヴァイズのように「違う!」と真っ向から否定してやりたかった。

だが、いじめという正義や道徳が全て無視されながらも、相手が多数派という事で被害者であるハズの自分が悪者にされる異常な世界にいたアズマには、怪盗ウォッカの主張を全否定できなかった。



『けれども………そんな人達でも、命は命だ!どんな理由があろうと、それを無闇に奪うようなら、僕達を踏みつけにした奴等と何も変わらないッ!!』



だが、どんな理由があろうと無差別虐殺だけは、アズマの常識と道徳から許せなかった。

それは、一方的な正義感を持って命を踏みつける時点で、多数決の正義の美旗の元にアズマを踏みつけにしたクラスの不良と何も変わらないと。


アズマもまた、ここの客のような無自覚な圧政者に踏みにじられた存在。

だからこそ、彼等のようになりたくなかったし、なろうとしている人間を見過ごすワケにはいかなかった。



『………なぁるほど、青い、青いねぇ………』



怪盗ウォッカはというと、案の定そんなアズマを冷ややかに嘲り………つつも。



『だから………スカーレット君は君に惹かれたのかもねぇ』



本心から感心し、また嬉しかった。

実を言うと、スカーレットに相棒が出来たと聞いて少しムッとしていた。

だが、踏みにじられつつも善性を捨てないアズマの姿を見ると、これ程ならスカーレットも側に起きたいと言えるだろうと思えた。


こんな人間がまだ居たのなら、この日本もまだまだ捨てた物じゃない、かも知れない。



『だけど………私の邪魔はさせられないなぁ!!』



同時に、怪盗ウォッカもまた、自分の信念を曲げるつもりはなかった。

そして、その前にアズマが立ち塞がるなら、倒して押し通るのみ。


ブラックニクスバーンの巨体を、ニクスバーンに向けて突撃させる。



『ウォッカぁぁぁ!!』



対するアズマも、ニクスバーンをブラックニクスバーンに向け、突撃させる。



どがしゃあああん!!!



まるで、建造物同士がぶつかるような轟音と共に、赤と黒の二体の巨大ロボットニクスバーンが、この偽りの夢の島ネバーランドにて激突する!

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