第10話
どごぉぉぉん!!
各々のキラキラしたリアルの充実に気を取られ、そのしわ寄せとして踏みにじられるネバーランドの作業員・従業員達にすら気づかなかった、この遊園地の愚かな客達。
けれども轟音と揺れと共に、ネバーランドの一角に現れた50mもある巨大ロボット・ニクスバーンには嫌でも注目せざるを得なかった。
「おっ!なんだよあれ!」
「何かのイベントじゃね?」
「面白そう!」
「見に行こうぜ!!」
………いや、愚かだからこそ注目したと言えるだろう。
目先の楽しみしか頭にないから、自分達の「キラキラ」の為に踏みにじられる側に気づかない。
それどころか、眼前に現れた非日常の異形たるニクスバーンに対しても、イベントだと考える程度には都合のいい脳ミソをしているのだ。
そして、
………自分達が、危険に近づいている事も、知らず。
そんな
………………
これも、スカーレットの作戦である。
怪盗ウォッカは、スカーレットがモリタに手を貸すと聞き、きっと何度も交わした再戦を期待してやってくるだろう。
スカーレットは、その裏を突く事にした。
怪盗ウォッカは、スカーレットの事は熟知している。
だが、新顔であるアズマ、ましてや世界に前例のない存在たるニクスバーンの事など知るはずもない。
怪盗ウォッカがスカーレットに夢中になっている隙をつき、対策を学ばれない一瞬を突き、ニクスバーンを使って怪盗ウォッカを捕まえる。
曰く、完璧な作戦である(スカーレット談)。
「………スカーレット、これは君………正義のヒーローとしてはアリなのかい?」
「ええ、私正義のヒーローじゃないから」
だが、今ニクスバーンの手の中に捕まっている怪盗ウォッカの言うとおり、あまり格好のいいやり方とは言えない。
いくら御託を並べた所で、要は騙し討ちである。
「き、ききききき、貴様らぁ!!よくも、よ、よくもネバーランドをォ!!」
そして、モリタが顔を真っ赤にして怒り狂っている。
その理由は、ニクスバーンを呼び出した際に、モニュメントの一部を破壊したからだ。
それだけでなく、怪盗ウォッカの放ったガトリングガンによって、テトラグループ本社ビル前の他のモニュメントや街路樹、街灯も破壊されてしまっていた。
たしかに、怪盗ウォッカは捕まえた。
しかし、それでコラボ先の施設に損害を与えるのは、社会人としてあってはならない事だ。
が、怪盗ウォッカを相手にするという事がどういう事かは、過去の彼女とスカーレットの事を調べていれば解っただろう。
それを考えると、モリタは変な所で軽率とも言えたし、これも自業自得と言えない事もない。
「この事は訴えさせてもらうからなぁ!!」
「はいはい」
「真面目に聞けえぇ!!」
配信はまだ続いている。
にも関わらずモリタが視聴者に向けて醜態を晒している理由は二つある。
一つは、やはりというか、自分が絶対的に正しいと盲信しているから。
一つは、やはりというか、ネットの持つ力を完全にナメているからだ。
命を助けてもらったにも関わらず、この態度。
今頃、コメントも再び荒れているだろう。
本当に、この男には評価できる所はないな、とスカーレットも呆れ顔。
「………クク………フフフフフ………」
怪盗ウォッカも、それに呆れて笑っている………かに見えた。
まあ確かに、モリタに対する侮蔑と嘲笑の意味もあったのだが。
「………なあ、スカーレット」
「何よ」
大方、そんな奴の味方をして楽しいか?とでも聞いてくるつもりなのだろうと、スカーレットは身構える。
その時は「楽しくないけど、仕事だから」と返してやるつもりだった。
が。
「………君は、日本で活動している間に、色々と鈍ったようだな?」
「は?」
いきなり何を言い出したのだこいつは?とも思ったが、スカーレットはそれが正論である事をすぐに思い知る事となった。
「………私の持つ厄介さを忘れていないかい?我が好敵手よ」
怪盗ウォッカの指摘でようやく思い出し、スカーレットは自らの感が鈍っているという事をようやく自覚した。
そう、怪盗ウォッカの持つ厄介な能力。
体内に埋め込まれたドッペルゲンガーによる、相手の武器のコピー能力。
それは、先程見せたスカーレットとの大立ち回り=戦闘もそうではあるが、様々な面で怪盗ウォッカの「厄介さ」として、彼女と対峙する相手を悩ませた。
逃げ場のない屋上に追い詰めたと思ったら、ドッペルゲンガーによって戦闘機を呼び出して逃げたなんて、ザラである。
更に言うと、ドッペルゲンガー能力によって、対象をコピーできるようになる条件は、恐ろしい程に簡単だ。
それは、コピー対象に対して怪盗ウォッカがしばらく物理的に接触している事。
怪盗ウォッカの皮膚を介して、ドッペルゲンガーがまるでコンピューターのように対象をスキャンするのだ。
露出が低い格好をしているのも、余計な物をスキャンしないようにする為だ。
………そして、今怪盗ウォッカはニクスバーンの手の中に捕らわれている。
それが何を意味するか、解らないスカーレットではない。
「アズマくん!!そいつを離して!!」
「えっ?」
咄嗟に叫んだスカーレットではあったが、何もかもが遅すぎた。
怪盗ウォッカの口角がニタァとつり上がり、胸のドッペルゲンガーが五度目の輝きを放つ。
そして。
………ぼしゅうううっ!!
ニクスバーンの、怪盗ウォッカを握っていた手から再び煙幕がごとく広がる冷気!
いや、勢いだけで見れば煙幕と言うよりは爆発と言っていいだろう。
なんせ、50mあるニクスバーンが、衝撃でよろけたのだから。
「うわ………ッ!?」
突然の事に、ニクスバーンのコックピットにしがみつくアズマ。
まるで、ニクスバーンの手の中で何かが広がったような感覚を覚え、ふとモニター越しに、怪盗ウォッカが捕らわれているハズのニクスバーンの手を確認する。
「(いない………!?)」
ニクスバーンの手の中に、いるハズの怪盗ウォッカの姿がない。
まさか逃げたのか?と、一瞬アズマの脳裏に過った直後、その答えは暴力的な形となり現れた。
………ずわっ!!
アズマの動きが止まった一瞬の隙を突き、広がった冷気の向こうから現れた「それ」が、ニクスバーンにものすごい勢いで激突した。
「う、腕!?」
ずどぉ!!と、地面に倒れるニクスバーン。
衝撃が走ると同時にアズマが見たのは、ご本の指を持った人間のような腕。
ドラゴンのような巨大モンスターを連想したアズマだったが、冷気の向こうから現れたのは悪い意味で想像を越えた正解であった。
「え………?」
冷気の向こうから現れたそれは、間違いなく「ヒトガタ」をしていた。
四本の四肢を持ち、頭のある、メカニカルなデザインの巨人。
問題は、その姿である。
袖のようになった腕と、袴のように膨らんだ足と、まるで古代日本の
背中には、畳まれているものの一対の翼のような機関が見え、それを繋ぐように、鳥類の頭を思わせるようなパーツが見える。
赤いヘルメットに白いマスクの頭部には、ライトグリーンのデュアル・アイと、具足の兜を思わせる一対の角と、目に見てわかるヒロイックなデザイン。
「嘘でしょ………これじゃ、まるで………!」
ただ違うのは、見下す先にあるオリジナルと相対するような、黒と紫を基調とした一目で「悪者」だと解るカラーリング。
そこにあったのは、紛れもなく。
「………黒い………ニクスバーン………!」
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