第1話
某死体を見に行く友情洋画のノスタルジーを感じるテーマソングが、ハンドル部分にスタンドを付けて固定したステレオ代わりの
バイクのエンジン音が響き、夏の青い空が視界を彩る。
だが残念な事に、ここはアメリカのルート66ではなく日本の高速道路。
はみだしテイカーズの二人が乗るのも、かっこいいハーレーではなくタンデム・ジャイロのバルチャー号。
まるで、バイクの真似をした装飾を自転車につけた田舎の中学生のような、なんとも締まらない光景。
けれどもアズマにもスカーレットも、お互いがいるだけでそこは楽しかった。
「………そろそろお昼ね」
携帯の時計に、11:40と表示が浮かぶ。
スカーレットもアズマも、少々空腹を感じていた。
そろそろ、次の町につく前に昼食を済ませたい所。
「あそこでお昼にしましょう!」
「お、いいわねぇ」
そんな二人の前に、高速道路に隣接する道の駅が見えてきた。
まあまあ大きく、
スカーレットはバルチャー号のハンドルを切り、ドライブインへと入ってゆく。
見れば、青い空の元に、青い海………そこに立つ、ある島が視界に入ってきた。
………………
道の駅にあった食堂は、食券で注文を行う方式を取っていた。
スカーレットが選んだのは、ラーメン定食1500円。
アズマが選んだのは、ハンバーグ定食とサラダ1500円。
お腹に溜まりつつも、栄養価も考えられた彼等らしい選択である。
「やっぱ日本の
「スカーレットさん、ラーメン好きですね」
社会的には平日という事もあり、席はガラガラで客もまばら。
「オ゛ア゛ァ~………」と一息つきながらエナジードリンクを飲みながらそばめしを食べている運送トラックの運転手か、
辺りを憚り隠れるようにフライドポテトを分け合う何かワケありそうな男女を覗けば、客はスカーレットとアズマのみ。
経済的な問題で家族旅行も減った今であるが、それでもそんな利用者のお陰で、このドライブインはなんとか儲かっているらしい。
『社員の残業代について虚偽の報告をしたとして、××社代表取締役社長××容疑者が、書類偽装及び労働基準法違反の疑いで………』
テレビで流れてくる、市民のささやかな正義感を満たす、悪党が成敗されたニュースをBGMに食事は続く。
確かに、自分達も生きる社会で迷惑をかける人間は取り締まってもらう事に越したことはないのだが、スカーレットはあまりこういうニュースを見ないようにしている。
この手の快感は薬物と同じであり、摂取をしすぎるととんでもない事になるのだ。
現に、それで警察のお世話になった人間を、スカーレットは何人も見てきている。
その旨をスカーレットから聞いていたアズマも、ニュースにはあまり注目せずにハンバーグと白米を口に掻きこんでいる。
その時。
「ん?」
ふと、テーブルの上に立てて置かれたチラシが、アズマの目に入った。
サイケな派手な装飾が目を引き、アズマの中に起こった「なんだこれ」という疑問が、気がつけば彼の手を動かしていた。
「………ああ」
チラシを広げたアズマの顔からは、少なくともいい感情の篭ってない驚き。
台詞にするなら「よりによってこれかよ」とでも言いたそうな感情が、スカーレットの興味を引く。
「どったの?」
「スカーレットさん、これです」
「………ああ」
チラシを手渡されたスカーレットもまた、アズマのそれが感染したかのように、顔をしかめて驚いた。
よりによってこれかよ、と。
「………ここ、近くだったのね」
チラシには、明らかにセンスのないデザイナーが考えたような、下品な程に派手な色合いの装飾。
そこで笑顔を浮かべた、これまた明らかにセンスのないデザイナーが考えたような、某鼠や鳥に便乗した感丸出しの、カートゥーンに出てきそうな不細工な妖精のマスコットキャラ。
そして映える角度で撮影したアトラクション………
………既存のアニメや特撮を話題作りの為にコラボと称して引っ張ってきたそれが、目玉とばかりにデカデカと写し出されている。
そしてその中心に書かれた「ネバーランド」という名前。
………ネバーランド。
永遠の少年が登場する童話に登場する、少年の住み家である島。
そこから名前を取った、新世代テーマパークという触れ込みの、ようは遊園地である。
ある海沿いに、コンクリートで固められた人工島の上に建造された、名前の通りの「夢の島」。
特徴として、巷で人気のアニメや特撮をテーマにしたアトラクションがいくつもある事が挙げられる。
既存の遊園地と違い、その手の物に疎い今の若者世代にも興味を持ってもらう為にとの、遊園地を運営するグループの会長の方針らしい。
実際、ネバーランドは大盛況であり、こんな不景気の真っ只中において、トップクラスの売り上げを得ていた。
………の、だが。
「やけにチラチラ視界に入る物があると思ったけど………立地がここだったなんてね」
確かに、ネバーランドは売り上げも好調であり、なおかつ世間からの反応はいい。
けれどもそれはリアルの話であり、インターネット………その「コラボ」の名目で引っ張ってこられた作品のファンからは、概ねウケは悪い。
ライト層を含む一般人からすれば解らないのだが、細かい所を見ていけば元ネタと違う所や、明らかに雑なコラボ要素が目立ってくる。
更に言うと、アトラクションの多くがそんなコラボ物ばかりであり、この遊園地の個性……自分の持っている独自の武器がなく、どうしても
金をむしりとる事しか考えない、作品へのリスペクトのないイナゴ遊園地。
それが、ネットにおけるネバーランドの評価である。
「なんか………変な空気になっちゃいましたね………ごめんなさい」
「いいのいいのよ、アズマ君が悪いワケじゃないし」
が、基本的に他者を貶める事はしない、嫌な物からは離れるか耐えるかのアズマでさえ、ネバーランドに顔をしかめている理由。
それは、ネバーランドの経営体制や、それを運営するグループの会長に由来する事なのだが、それは一旦置いておこう。
「はい、ごちそうさま」
「………ごちそうさま」
昼食を終え、トレイを片付ける二人。
フードコートにかけられた時計は12時過ぎを指している。
そろそろ旅を再開して、
そう、考えていた時であった。
「ちょっと、よろしいですか?」
道の駅から出ようとして、二人は呼び止められる。
振り向けば、そこに立っていたのは三人の男性。
どこか、某ロボットアニメの主人公陣営の制服を彷彿とさせる作業着に身を包んだ彼等は、特にガラの悪いという訳ではなく、一目見ただけではまさに「善良な一般市民」といった印象を与える。
「あの………どちら様で?」
が、問題はその表情。
ニコニコと笑顔を浮かべているのだが、その笑顔はどこか不気味だ。
まるで、張り付いたような。
「はみだしテイカーズのお二人ですね?」
「そう、ですけど………」
一番問題なのは、彼等がはみだしテイカーズを知っていた事。
テイカーが良く思われていない日本において、彼等にテイカーの面から関わってくるのは珍しい。
さて、鬼が出るか?蛇が出るか?
「
答え、鬼は出たし蛇も出た。
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