第46話 アンボルタンとの戦い③
「フェイト……あんた、生きて……」
俺の声に、俺の姿に気づいたメリッサは目に涙を浮かべてこちらを見ていた。
え? なんで泣いてるんだ?
「生きてって、死んでないから生きてるに決まってるだろ」
「だって、ゲイツたちがあんたは死んだって……」
「ああ……あいつらに裏切られたな、そう言えば……とにかく、俺は死んでない。こうして生きてる」
「そっか……そうなんだ。良かった」
「……フェイトさん、お知り合いですか?」
少し焦った様子でミューズが俺にそう聞いてくる。
「ああ。元パーティの仲間だよ」
「なるほど……お前を裏切った奴の一人か」
心なしかセリスが怒っているように思える。
俺は彼女の考えを訂正するように言う。
「違うよ。仲間だって言ってるだろ。裏切ったのはただのパーティのメンバーで、彼女は唯一仲間だった人だ」
「そうなのか……」
「それでフェイト、聞きたいことが二つほどあるんだけど」
「なんだ?」
彼女の瞳から涙は消えていた。
代わりに、目元から怒りが滲み出ているように見える。
なんで?
「まず、こいつらは誰? 敵?」
「ああ。ちょっと面倒なことになっててさ。手伝ってくれたらありがたい」
「なら――全力で手伝ってあげるわ!」
瞬迅。
メリッサが目にも止まらぬ速度で敵をなぎ倒し、そしてセリスの隣まで移動する。
「迅いな……」
その速度に敵はおろか、セリスまで驚愕しているようだった。
「迅さには自信があるのよ。それから――これにも自信があるのよね!」
メリッサの拳が、蹴りが、敵を吹き飛ばしていく。
凄まじい速度から繰り出される彼女の攻撃は、易々と敵を倒し続ける。
「……ここは彼女に任せておいて問題ないだろう。お前の相手は私がしてやる」
【神器】を構えるセリス。
対峙するクローズは、憎しみを込めてセリスを見据えている。
「援軍が一人来たぐらいで調子に乗るな。リズベットの仇は取らせてもらうぜ、ドアホ」
「ふん。貴様に私が倒せるものか。妹と仲良く、あの世に向かわせてやる」
「この――アマが!」
クローズの連撃。
だがセリスはこれを悉く弾いてしまう。
「この……このぉおおおおお!」
「無駄だ。貴様程度の実力者、私に勝てるわけがないだろ」
「……フェイト!」
「どうした?」
メリッサが戦いながら大声で俺に聞いてくる。
「聞きたいこともう一つ。その子とこの女は誰!?」
「誰って……新しい仲間だよ」
「新しい仲間って、そもそもなんで生きてるって私に伝えに来なかったのよ!」
メリッサが怒りを込めて敵を殴り倒していく。
これはどうも本気で怒っているようだ。
伝えなかったのは悪いとは思うけど、そんなに怒ります?
「その話は後にしようぜ。今は目の前の敵に集中しよう」
「そうね……今は目の前の悪党……あ、そう言えばこの中に犯人がいるかも」
「犯人?」
『伸縮剣』で敵を倒しながらメリッサとセリスの方を見る。
セリスは余裕の表情でクローズと戦っていた。
メリッサもまた余裕らしく、敵を殴り飛ばしながら話す。
「ロンドロイドの宿を破壊した悪党がいるんだけどね……私はそいつらを探しにヴァイアントに来たってわけ。そしたらこの洞窟に悪い奴らがいるって話じゃない? だったら犯人はこの中にいるって考えるのが妥当かなって」
俺の心臓がドキンと飛び跳ねる。
その犯人は俺たちです。
俺たちと言うか、厳密に言えばミューズですけど。
冷や汗を大量にかきながら、俺は彼女に伝える。
「は、犯人はきっと
「そうよね。私もそう感じてるのよ」
勘が鋭いな、メリッサは。
なんて考えながら俺は戦い続ける。
真実から目を逸らすかのように。
「こいつ……うぜーんだよ!」
魔人化した自身よりも強いセリス。
その彼女に恐れをなしたのか、クローズが天井付近まで上昇し、そして周囲を見渡す。
逃げることを考えているのか。
あるいは勝利するために何か手立てを探しているのか。
だがそれは逃走ルートを探しているということにすぐ気づく。
だって俺たちがいる方向とは逆の方へと飛んで行こうとするのだから。
「逃がすか」
「なっ!?」
セリスの【神器】が炎を巻き上げ、凄まじい斬撃を繰り出す。
炎の一撃はクローズの翼を燃やし尽くした。
地面に落下するクローズ。
まだそこから逃げようとするのかと思ったが……だがそれよりも、奴の精神の方が先に限界を迎えたようだ。
「グァアアアアアアア……」
魔人化の代償だろう。
精神が魔に飲まれていく。
辛うじて保っていた人間としての意思が、一瞬で失われていた。
セリスの強さに心が折れてしまったからだろうか。
悪魔とは、人の弱みに付け込むものだから。
目の色が完全に人ならざる者へと変化し、暴走を始めるクローズ。
先ほどまでよりもさらに凶悪な力を発揮している。
「に……逃げろ! クローズさんが正気を失った!」
「前に【転魔の宝玉】を使った奴と一緒だ……死ぬまで暴走を止めないぞ!」
俺の前にいた奴ら。
そしてメリッサと戦っていた奴ら、それら含めて全ての敵が撤退を開始する。
彼らがこれほどまでに逃げ惑うところを見ると……それなりに厄介なのだろう。
俺は『伸縮剣』から手を放し、代わりに別の剣を【複製】し、右手に持つ。
「被害が出る前に勝負をつける。皆は下がっててくれ」
俺は町の人たちに後退させるよう指示し、大きく息を吸い込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます