第2話 バカと言う方がバカなのである。

 俺の【ジョブ】は確かに【アイテム師】。

 何も知らなかったら、役立たずとしか考えられないでろう。

 だって最弱のジョブの一つなのだから。

 誰だってそう思うのは仕方がない。

 

 でも俺は今まで、皆をちゃんとサポートをしてきたつもりだ。


「【能力強化ポーション】を用意しているのは俺だし、回復アイテムだって俺が皆に――」


「だから、そんなことシャイザーができるんだよ。アイテムの効果を上昇させられるのはお前だけじゃない」


「いや、俺は――」


「グダグダうるせえ! お前がいる分、俺たちの報酬が減るんだよ。必要な分を差し引いた後、人数分で割って、でもお前がいなけりゃそれだけ俺らの懐が温かくなる! 」


「金の問題かよ!」


「金の問題だけじゃないけど、金の問題を考えるだけでもデメリットしかないでしょ? アイテムしか使えない無能サポーター雇うだけでお金かかってちゃ、皆が苛立つのも分かるでしょうよ」


「金の話なら、俺がいるから逆に助かってるはずだぞ」


「そんなわけないでしょ。こいつ真正のバカなのね」


 クィーンの言葉に、皆が大笑いしはじめる。

 俺は皆の態度と言っていることに怒りを覚え、ゲイツを睨んだ。


「金だけの話じゃなくて、俺がいなくなったら――」


「だから何度も言わせんじゃない! 言い訳なんて沢山だ! 俺たちはもうお前を必要としていない! いや、最初から必要としてなかったね! アイテム配るぐらい誰だってできる……メリッサがどうしてもって言うから置いてやってただけだ!」


 メリッサ――

 それはパーティの中で一番強い、格闘家の女性だ。


 彼女は確かに僕のことを評価してくれていたけれど……

 と僕は気付く。

 この場にメリッサがいないのは、意図的なものなのではないのかと。


「……メリッサをわざと置いてきたんだな」


「ふ、ふん。そういうことだ。お前を追放するなんて話、あいつは絶対反対するからな……なんでメリッサはお前なんかを……」


 理由は分からないが、怒りを含んだ瞳で僕を見据えるゲイツ。

 怒りたいのはこちらだというのに……なんだよその目は。


「それで、お前たち全員は同じ意見と言うわけだ」


「メリッサが変に肩入れするだけで、俺たちは至極当然の意見だと思うぜ? なあ」


「そりゃそうよ。役立たずの無能がパーティにいるなんて。私たちはSランクパーティよ? そんな中に【アイテム師】がいたら、恥ずかしくて仕方ないじゃない」


 その【アイテム師】のおかげでお前たちはSランクパーティでいられる・・・・というのに……


 さっきまで頭にきていた俺であったが、その言葉がきっかけで、ふとどうでもよくなってきた。

 こんな奴らのために全力でサポートしてきたのか……

 馬鹿馬鹿しくて、そしてこいつらが本当のバカだと分かり、俺は大きくため息をつく。


「分かったよ。お前らのパーティは抜けてやる」


「抜けてやる? お前は自分の立場を分かっていない。追放だ。さっきからそう言ってるだろ」


「形なんてどうでもいい。とにかく分かったから、さっさと帰ろう」


「ああ、帰るとしよう。でも、俺たちはここから別行動だ」


「……別行動? こんなダンジョンの中でか?」


「俺らは四人で外を目指す。てめえは一人ダンジョンの中で死ぬんだよ」


「ダンジョン攻略中にお前がはぐれた。それぐらいじゃないと、メリッサは納得しないだろうからな」


 醜悪な笑みを浮かべる四人。

 こんなダンジョンの奧で俺を放置して帰るなんて……


 【アイテム師】は戦闘職とは違い、戦う力は皆無。

 そんな【アイテム師】をモンスターがうようよいる空間に置いていくなんて、ただの殺人行為じゃないか。


 俺はあきれ果て、嘆息して奴らに言う。


「メリッサにはそう言ってくれて構わない。だからダンジョンの外まで一緒でいいだろ?」


「ダメだね。お前はここで死ぬんだよ! バーカ!」


「ゲイツ……お前はもっと良い奴だと思っていたけど、まさかここまで外道だったとはな」


「なんとでも言え。雑魚に何言われても心に響かねえよ」


「今のが心に響かないなら、どうしようもないな。やっぱり先にバカって言った方がバカみたいだな」


 俺の言ったことに腹を立てたのか、ゲイツがクィーンに目で合図を送る。

 するとクィーンがクスクスと笑い、手に持っていた杖を俺に向け、そして魔術を発動した。


「じゃあね、無能の【アイテム師】さん。もう会うことはないけど……あの世でお元気で」


「あの世から俺たちの活躍を見てるんだな!」


「……じゃあな」


 最後にシャイザーがポツリとつぶやく。

 クィーンの杖から激しい光が放出される。


 これは目くらましの魔術だ。

 俺はその光から視線を逸らす。

 

 その隙にゲイツたちは大笑いしながら立ち去って行く。


「お前がモンスターに襲われて泣いて助けを乞う場面を見て見たかったぜ!」


「…………」


 ゲイツの下品な声が聞こえてきたが、俺は心を落ち着かせて目を開ける。

 確かに普通・・の【アイテム師】ならどうしようもないのだろうけど、俺なら問題なくダンジョンから脱出できるはず。


 あいつらは同じパーティにいたというのに、そんなことにも気づいていなかったのか?


 呆れ果てていた俺は、もう一度大きくため息をつく。

 やはりバカと言う方がバカなのだ。

 

 

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