第3話 【収納空間】と【複製】
周囲を見渡し、とりあえずモンスターがいないことを確認する。
「さてと……まずはコーラで一服するとするか」
俺は【アイテム師】。
最底辺で戦闘職ではないので最弱のジョブと言えるだろう。
ただし、俺の場合少し事情が違う。
普通では考えられないような【スキル】を所持しているのだ。
【スキル】とは、ジョブごとに習得できる技能のことで、【アイテム師】の場合はアイテムの効果を上昇させる【アイテムの知識】などだ。
だが俺は
いや、厳密に言えば、普通のジョブでは取得できるはずのないスキルを習得したと言ったほうが正しいか。
その中の一つが、【収納空間】。
俺が頭の中で念じると、目の前に空間がポカリと口を開く。
中は闇のように暗く、どこまで広がっているのか分からない。
ここには俺の私物を好きなだけ収納でき、いつでも好きな時に取り出すことができる。
その中から、ポーションの瓶に入れた黒い液体を左手で取り出す。
これはコーラ……
幼馴染の女の子がくれた物だ。
コーラとはこの世界には存在しない飲み物らしいが……
彼女曰く、前世の記憶の中では当然のように日常にあった飲み物らしい。
そして彼女は自分の記憶を頼りに、自身のスキルでそれを作成してしまったのだ。
それをもらった俺は、ずっとこれを所持しているというわけだ。
【収納空間】の中は時間の流れが無いらしく、このコーラが腐ることはない。
その上冷えたままなので、いつでも美味しい最高の状態。
こんなに嬉しいことはないというものだ。
「よし……
俺の特殊な【スキル】の内の一つ。
それが
これは左手に持ったアイテムを、右手に複製するというスキルだ。
スキルで複製できる物は、おそらく【神器】レベルの物以外ならどんな物でも可能。
何故【神器】は不可能だと知っているかって?
それは以前に試したことがあるからだ。
【神器】を持っていた人物と知り合いだったから、その子に借りて試したことがある。
ちなみに【神器】を所持していたのは先ほど話に出てきた幼馴染だったりする。
複製した物は、俺の手の中では消えることは無い。
ただし、俺の手から離れると、三十秒でその存在を失ってしまう。
アイテムを手渡した時は焦るものだが、逆に言えば自分が扱う分には焦ることはない。
俺はその場に腰を下ろし、右手にあるコーラをグビッと飲む。
「ぷはぁあああああ! 美味い! やっぱコーラは最高だな!」
炭酸のシュワシュワと喉を通る時の刺激。
そして悪魔のように真っ黒なところがいい。
俺はこれを一口飲んでから惚れこんでしまった。
右手にコーラを持ちながら、左手に持ったコーラを【収納空間】に戻す。
スキルで複製した物を消費したとしても、元の現物は消えることはない。
要するに無限コーラが俺の手元にあると言うわけだ。
何それ。最強すぎて笑いが止まらんのだが。
さっきゲイツたちが、必要な
俺の【能力強化ポーション】。
いつもゲイツたちはそれを飲んで戦闘に挑んでいたのだが……
これは俺の【複製】があったから毎回使用できていたのだ。
毎回そんな高価な物を購入していたら、どんな稼ぎのいいパーティでも破産してしまうレベル。
でも【複製】があったからこそ、ゲイツたちは辺り前のように使用できていた。
朝に飲むミルクなんかと同じにしてもらっちゃ困るよ。
と言うことで、俺がいなくなったら【能力強化ポーション】を毎回使用するのは困難になるだろう。
そもそも、あいつらはSランクというには少々力不足だったりする。
【能力強化ポーション】を常用することで初めて、Sランクとして成り立っていたのだ。
まぁこれからもあいつらがそれを使用し続けることができるのなら、これからも同じレベルを保てるんだろうけれど……やはり値段が高すぎて、現実的ではないと思う。
「ま、惨めな将来が待ってるんだろうな……」
俺はコーラをまた一口飲み、これからのあいつらのことを考えクツクツと笑う。
良い奴らだとは思っていたけど。
そう思い込んでいたけど、プライドも高い奴らだからな。
これから必死にどうやって行くのかは見ものだ。
まぁあいつらのことは今は置いておいて……
それよりも自分のことだな。
実際問題として、俺は戦闘経験はほとんど無い。
戦闘に関しては全てゲイツたちに任せていたからだ。
サポートに徹し、自分なりにパーティに貢献してきた……
俺は本気で頑張っていたんだけどなと、少し寂しい気持ちになる。
「……よし。気持ちを切り替えてここを脱出することを考えよう」
戦闘経験は少ないが……でも、自信が無いわけじゃない。
もしかしたら、ゲイツたちよりも戦えるかもしれないと考えている。
だったらもっと早くやっておけって?
でもそうしたらプライドの高いゲイツたちがやる気を無くしていたであろう。
俺なりに色々と気を使っていたのだ。
今となったらバカらしい話ではあるけど、真剣に仲間の事を考えていた。
いや、本当にバカな話だ。
あんな奴らのために。
俺は若干の苛立ちを感じつつ、【収納空間】を開いた。
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