第33話 ゴブリン出現
町の外から馬車に乗り、北へ向かう俺たち。
あまりの天気の良さに、セリスが腕を組みながらウトウトと眠り出した。
こいつまだ寝るのかよ……って、ちゃんと起きるんだろうな。
不安しかない。
馬車を下りる時に一悶着無ければ良いのだが。
「セリスさんって、本当に綺麗ですよね」
大声を出そうともセリスが起きないことを理解したミューズは、普通の声でそんなことを言い出す。
目の前にいるセリスは仮面姿に【神器】を腰に帯びているだけ。
いつもの鎧姿からでは想像できないほど魅惑的な体つき。
男をそそる体とでもいうのだろうか。
仲間としてしか見ていない俺でも、クラッとくるものがある。
「確かにそうだけどさ、ミューズだって可愛いじゃないか」
「わ、私が可愛いっ!? そ、そんな冗談はやめて下さい! そんなこと言われたら嘘だと分かっていても嬉しくて……興奮しちゃいます!」
「待て。今の言葉は撤回させてもらう。だから興奮だけはしないで下さい」
「あはは……やっぱり可愛くないですよね、私って」
面倒くせえ……興奮しなけりゃ可愛くていい子なのに。
面倒ではあるが、しかしミューズは落ち込んでしまったままなのでフォローを入れておく。
「言葉は撤回させてもらけど、嘘は言ってないからな」
「嘘じゃない……? え? どういうことですか? 撤回したのに嘘じゃないって」
「ちょっと複雑だけど、そんな落ち込むことはないってことだよ」
「は、はぁ……」
言葉の意味が理解できないらしく、ミューズは困惑している様子。
だが落ち込んだ顔はしなくなったのでこれでよし。
「そういえばフェイトさん、ヴァイアントってどんなところなんですか? 私あそこには行ったことがないので知らないんです」
「ヴァイアントね……俺も行ったことはないけど、自然豊かでいい所って聞いてるよ」
「へー。自然が溢れてるのっていいですね! 私、自然は大好きです」
「そうか。でも自然が好きだからってはしゃぎすぎるなよ。目的はあくまでアンボルタンファミリーだ。セリスに気を使ってな」
「はい! その辺りは大丈夫です!」
なんて言ったが、本当はミューズに興奮してほしくないだけである。
魔力を封印するネックレスを付けていても、料理をしようとしたら大爆発を起こした。
ある程度の興奮なら抑えられるようだが、許容範囲を超えると力は暴走を起こすようだ。
料理の時のように自然が好きで爆発を起こされたらたまったもんじゃない。
自然を破壊されるのも問題だし。
「モ、モンスターだ……どうするかな」
「モンスター?」
突然馬車が動きを止め、御者が少し震える声で前方を眺めていた。
俺は馬車の中から彼の視線の先を確認する。
「なんだ、ゴブリンじゃないか。大したモンスターじゃないよ。雑魚だ雑魚」
「お客さんから見れば雑魚かも知れないけど、俺からすれば脅威なんだよ……」
「なら、その脅威を駆除して来るとしましょうか」
セリスはまだ眠りについたまま。
俺一人でやるしかないな。
「じゃ、ちょっと倒してくるよ」
「あ、あの……」
「ん?」
「あー……私も手伝おうかなって」
ミューズが急にそんなことを言い出した。
手伝うって……魔術で?
いや、そんなことされたら困るんですけど。
大迷惑なんですけど。
辺り一面を消し去るつもりですか?
こちらは邪魔なゴミを処理するだけなんですけど。
「大丈夫だ。俺だけで問題ない」
「問題ないのは分かっています。でも、私も手伝いたいんです」
それが大問題なんです。
しかし、ミューズは真剣な面持ち。
否定はできるけれど、でも彼女のそんな気持ちは大事にしたい。
ミューズもまた、俺の大事な仲間の一人なんだから。
「分かったよ。でも、魔術は使わない方向で頼む。やるなら近接戦か弓でフォロー。いいな?」
「いえ、魔術を使いたいんです」
「ダメです。お願いですからそれだけは勘弁してください」
俺は真顔で言った。
するとミューズも真顔で言う。
「魔力が暴走するのは分かってるんですけど……」
「分かってるなら止めよう! 人の嫌がることも止めよう、ね!?」
「あの、でも少し試したいことがあって……それがダメなら諦めます。だから一度だけチャンスを下さい。お願いします!」
ミューズはどうやら本気のようだ。
魔力が暴走するのを理解しているけれど、でもそれでも試してみたいことがある。
だったら仕方ない。
その実験に俺も付き合ってやるとするか。
「オッケー。ミューズの実験に付き合ってやるよ」
「……実験が失敗した時はごめんなさい」
いきなり不安に駆られる俺。
怖いよ……やりたくないよぉ……
だけど仲間のために勇気を出そう。
俺は嘆息し、そして覚悟を決める。
セリスとドラゴンを倒した時より緊張してる。
お願いだから死なないでね、俺。
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