第5話 【付与】

「よっと!」


 軽々とオーガの胸元に剣を突き刺す。

 そして爆ぜる剣。

 オーガの体は四散し、下半身のみがそこに残る。

 ちょっと見た目があれだな……

 次倒す時はもう少し考えて倒そう。

 

「しかし、思ってた通り楽勝だったな。この分ならオーガより強いモンスターが出現しても大丈夫だろう」


 俺は剣を【収納空間】にしまい、コーラを取り出し【複製】して飲む。

 運動後の一杯がまた美味い!

 酒好きな冒険者も多いけど、こんな感じなのかな。


「お」


 コーラを飲みほしたと同時に、また新しくオーガが出現する。

 このオーガにも実験に協力してもらおうではないか。

 俺は学者にでもなった気分で、オーガに近づいて行く。

 

 次は防御力と単純な腕力の確認だ。


 まずは相手の武器を爆発する剣で破壊。

 これはあっさり成功。


 そこで俺はひらめきで、この剣のことを『爆発する剣ボム・ソード』と命名した。

 こういうのは名前があった方がいいよな。


 次に素手になったオーガの攻撃を、わざと喰らう。


「い……たくない」


 大きな拳を胸に食らったのだが、効果はない。

 まるで虫に触れられたような感覚。

 それぐらい相手の攻撃は通用しなかった。


 これは【付与】エンチャントという、第三のスキルが関係している。

 【付与】は特定の能力を装備に付与できるスキルで――現在俺の着ている服に【防護】の能力を付与していたのだ。


 【防護】はその名の通り、守りを固めてくれる能力。

 効果は抜群。

 これなら死ぬ要素はもうないのでは?

 そう思えるぐらいに敵の攻撃は効かなかった。


 続きまして、武器無しの攻撃になります。


 攻撃が効かなかったことに困惑しているオーガの腹部に右拳を突き刺す。


「ウゴォオオオオオ……」


 痛みに腹を押さえるオーガ。

 素手でもオーガに勝てそうだな。

 

 母親から貰った指輪があり、それに【腕力強化】という能力を付与しているため力も上昇している。

 他には幼馴染からも貰った指輪に【魔力強化】、はいているブーツに【俊敏強化】を付与しているので魔力も速度も上昇済み。


 全方位に強化された俺の能力。

 もうどんな敵が来ても負けないんじゃない、これ。


 首からチェーンで二本の指輪を垂らしており、俺はその指輪に触れる。

 金色の指輪は母親から、銀色の指輪は幼馴染から貰った物だ。


 結婚相手にこの指輪をあげなさいと母親から譲り受けたのだが……俺が最大限に有効活用させていただいています。はい。


「おっと。まだ戦いの最中だったな」


 オーガはようやく痛みから解放されたのか、怒声を上げながらこちらに向かって来る。

 俺は心を落ち着かせ、相手の動きに合わせて腹を殴りつけた。


 カウンター。

 その一撃はオーガの内臓を破壊し、吐血させ、絶命へと至る。


「よし。力の確認も完了。後はダンジョンを脱出するだけだな」


 だがそれが一番の難題。

 どうやって脱出するかな……


 俺は途方に暮れながらダンジョンの内部を彷徨う。 

 この辺りにはオーガばかりが出現するようで、次から次へと敵が現れる。

 オーガを二十匹ほど『爆発する剣ボム・ソード』で爆殺したところで辟易する俺。

 もうモンスターはいいから人間のかた出てきてください。

 あ、俺を外まで案内してくれるならモンスターでも可。

 でもそんなことしてくれるわけないよね。


 俺は壁にもたれかかり、コーラで喉を潤そうと考えた。

 だが考えたその時――突然、もたれていた壁から『ガコン』という音がする。


「へ?」


 落下。


 足元に穴が開き、重力に従い俺は下へ下へと落ちて行く。


「え? え? 何が起きたの? 何が起きたんだ!?」


 空中でパニックになる俺。

 捕まるような場所は全くない。

 ただ落下するのみ。


 このまま地面に叩きつけられたら死亡してしまう。

 死の一文字が頭を過る。


 そして襲い来る衝撃。

 凄まじい勢いで俺は地面に叩きつけられてしまった。


「い……たくない。また痛くない」


 【防護】様様。

 あれだけの落下速度で痛み一つ無いとは。

 俺は起き上がり、小躍りして無事を喜んだ。


「お、おい! いきなり現れて踊り出したぞ、こいつ!」


「え……」


 小躍りしていた俺であったが……目の前には人がいたようだ。

 男が四人……そのうちの三人が踊っている俺を見て、キョトンとしている。


 恥ずかしさのあまり死にたくなる俺。

 なんで今の落下で死なないんだよ!

 【防護】凄すぎだろ!

 今だけでいいから俺を殺しておいてくれよ!


「そ、それより今はこいつに集中しろ!」


「ああ!」


 どうやら男たちはモンスターとの戦いの最中だったようだ。


 相手は……見たこともないモンスター。

 人間を凌駕する巨体に緑色の肌。

 見るだけで怖気が走る一つ目に、怒りに満ちた表情。


 こんなのが目の前にいたというのに、俺は踊っていたのか。

 よくこんなのに気づかなかったものだな、俺も。


「うおおおお!」

 

 戦士の二人が一斉に駆け出す。

 相手の足に向かって左右から――斬撃。


「なっ!?」


 だがその攻撃は通用せず、剣が簡単に折れてしまう。


「こいつ……本物の化け物だ……」


 瞳に絶望を宿す男たち。

 だが一人だけ相手に怯みことなく、真っ直ぐ進む者がいた。


 それは全身真っ黒な鎧に身を包んだ戦士。

 俺は彼のことを知っている。

 彼はSランクパーティ、黒き刃ダークブレイドの黒騎士と呼ばれる者だ。

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