最終話 一難去ってもまた一難

 崩れゆく洞窟の中を走り続ける俺たち。

 俺が前を走り、町の人たちがついて来る。

 ミューズは俺の隣を走り、セリスとメリッサは最後尾についてくれていた。


「間に合え……間に合え!」


「間に合わなかったらどうしましょう!?」


「間に合わなかったら死ぬだけだけど!?」


 そんなことぐらい分かるでしょうに。

 だがミューズは少しパニックになっており、冷静な判断ができなくなっているようだった。

 そりゃ生きるか死ぬかの瀬戸際だもんね。

 俺だってちょっと焦ってるし、君の胸の内分かりますよ。


 でもこんなところで慌てるわけにはいかない。

 とにかく全力で走り抜けなければ。


「フェイトさん! 入り口分るんですか?」


「分かるわけないでしょうよ! 俺を誰だと思ってるんだ?」


「……そうでしたね。じゃあ私たちの生き死には運任せということですか」


「運任せって……ミューズは出口分るのか!?」


「分かるわけありませんよ!」


「だったら運に任せるしかないな」


「やっぱり運任せなんじゃないですか!」


 俺はミューズの声が聞こえないふりをして走った。

 そうですよ、運任せですよ。

 こんなだだっ広い洞窟の構造なんて覚えられるかよ。

 そもそも俺、方向音痴だし。


 開き直った俺は引きつった笑みを浮かべて足を動かす。

 そんな時である。

 前方に何やら見知った顔の人物が飛び込んで来た。


 それはゲイツたちだった。

 何故こいつらがこんな所に?

 でも今はそんなの気にしている場合じゃない。

 逃げるのが先決だ!


「あ、フェイト――」


「邪魔ぁああああ!!」


 俺に話しかけようとしてきたゲイツの顔面に、全力で膝蹴りを入れる。

 ゲイツは倒れ、彼を心配したヒューバロンやクィーンたちは、町の人たちに足場にされていた。


「んがああああ! 痛い! 痛いっての!」


「やめなさいよ! 私を誰だと……私を踏むのは止めてぇええええ!」


 奴らの悲鳴が聞こえてくるが気にしない。

 俺は脱兎の如く、全力で駆け巡る。


 そして奇跡は訪れた。

 目の前に洞窟の入り口が見えるではないか!


「出口だ! 皆、もうすぐだぞ!」


 セリスとメリッサが洞窟を出た瞬間であった。

 入り口は崩れ、洞窟の出入りが出来なくなる。


「間一髪だったな……」


「それよりフェイト。なんだか聞いたことある悲鳴が聞こえたんだけど……」


「気にするな。きっと幻聴だよ」


「……疲れてるのかな、私?」


 そんなことはないんだろうけど。

 だがゲイツたちが何故あんなところにいたのか知らないし、状況を説明するのも面倒だ。

 だから今はこれで良しとしよう。


 とにかく、こうしてアンボルタンファミリーとの戦い、町の人たちの救出は終わったのであった。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 天気のいい空の下、俺は皆と町の中を練り歩いていた。

 昨日は激しい戦いがあったのだ。

 今日ぐらいのんびりしてもいいだろう。


「で、これからどうするつもり?」


「アンボルタンファミリーと戦うところまで決めてたけど……後のことは何も考えてなかったな」


「そうだな。これからどうするか……仕事をしながら世界中を歩き回るのも悪くないな」


「ここに住むのもいいですよね」


「悪者退治もいいんじゃない?」


「うーん……どうするかな」


 俺は三人の意見を聞き、どうするべきか悩んでいた。

 ここに住むのもいいし、冒険者を続けるのもいい。

 悪人退治は面倒だけど……まぁ冒険者ついでにやるのもありかな。


「あ、そう言えば、宿を爆破した連中って誰だったんだろ……? 男と女の三人組だって言ってたけど」


 ギクリ。

 俺は頬を引き吊らせながら、メリッサに適当なことを言う。


「ほ、ほら……アンボルタンファミリーが親父と息子と娘の三人組だったろ? だから犯人はあいつらだったんだよ」


「ああ、それなら合点が行くわね……ってことは、これで事件は解決したってことね」


「うん。それで良いと思う。そうしておいた方がいいと思う」


「なんの話だ?」


「お前は気にしなくていい。だって寝てただけなんだから」


 セリスは状況を理解できないらしく肩を竦める。

 そして笑みを浮かべながら、俺の腕を取った。


「お前には礼がしたい。今日は好きな物を奢ってやろう」


「あ、いいの?」


「ちょっとちょっと! 奢るのはあんたの勝手だけど、腕を組む必要はないでしょ!?」


「確かに必要はないが……組んでも構わんだろう」


「構うのよ! いいから離れなって」


「なんだお前……文句があるのか?」


「あの……喧嘩は止めませんか?」


「これは喧嘩じゃない。女と女の戦いだ」


「なるほど……そういうことか。ならば、私も全力で戦うとするか」


「やめて! お願いですからやめてください!」


 何故か喧嘩……もとい、女と女の戦いを始めようとするセリスとメリッサ。

 ミューズは狼狽え、オロオロするばかり。

 俺は呆れてしまい、深く嘆息する。


 「お、お願いですから止めて下さい! じゃないと私……嫌で嫌で興奮しちゃいます!」


「お前、そんな理由でも興奮するのか――!?」


 ミューズの魔力が暴走を起こし、大爆発が起きる。

 折角町の人たちを助けたってのに、これじゃまた犯罪者扱いだ。

 ペンダントも効果どうした!?


 俺は爆発に飲み込まれながら、また嘆息する。

 これからも困難もこんな難も、次々と訪れるのだろうな……

 楽しいことも辛いことも起こるだろうけれど、でも俺たちはこうして生きていくのだ。

 色んな事を分かち合いながら生きていくのだ。

 だが爆発だけはもう勘弁してほしい。

 俺は心の底からそう願った。


 ◇◇◇◇◇◇◇



 これにて一旦完結となります。

 お付き合いの程ありがとうございました。

 また明日から新作を投稿いたしますので、フォローをしてお待ちいただければ幸いです。

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役に立たない無能は必要ないとSランクパーティを追放された最弱ジョブの【アイテム師】~しかし奴らは俺が【複製】【融合】【付与】などのチートスキル持ちの最強だとはまだ知らない~ 大田 明 @224224ta

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