第38話 邂逅、リズベット

 ヴァイアントに到着して三日目。

 まだアンボルタンファミリーの所へと向かっていない。

 というのも、いきなり突っ込んで誘拐された人たちが殺されることを危惧しているからだ。


 まずは相手の情報を収集するころから始めなければ。

 どれだけの数がいて、どんな場所に潜んでいるのか。

 突入するにも色々と下調べが済んでからだ。


 セリスは見るからに苛立っている様子だった。

 今すぐに仇を取りに行きたいが、そうするわけにはいかない。

 彼女だって誘拐されている人たちを助けなけばいけないことはよく理解している。

 だから不満を口にすることはないが、ピリピリしし過ぎてミューズが怯えていた。

 怖いからもう少し周囲に優しくしましょう。

 なんて今言ったら怒られそうだから俺は何も言わない。


 セリスには気分転換……になるかどうか分からないが町で素振りをしてもらい、その間、俺とミューズは森の中へと捜索に行っていた。

 冷静な判断ができないセリスを連れて行くよりは、二人で行動した方が動きやすい。

 もしアンボルタンファミリーと出くわしたら、セリスは考える前に切りかかるだろうから。


 森の奥へと進んで行くと、大きな洞窟があり、そこが奴らの根城だと判断する。

 木々に隠れ、洞窟の入り口付近を見張っていると、見るからに悪党な連中が出入りしていた。

 うん。これは間違いない。

 ここがアンボルタンファミリーのアジトのはずだ。


「ここが敵の拠点で間違いないみたいですけど……どうしますか?」


「敵の数も多そうだし、迂闊に突入はできないよな……中の様子を知りたいけれど、どうやって忍び込むか……」


「あー……捕まってみるとかどうでしょう?」


「敵を数人殺したら捕まるかな?」


「物騒すぎです! そうじゃなくて、町の人たちみたいに誘拐されるんですよ」」


「なるほどな……じゃあ誘拐してくださいって頼みに行くか?」


「そんなバカな人いませんよね? なんというか、こう、自然に捕まる形じゃないと」


「自然に誘拐されたことないからな……」


「…………」


 俺は一つ咳払いし、話を続ける。


「ま、冗談はほどほどにして、どうやって誘拐されるからだな……今から洞窟の入り口に出て行くか?」


「そうですね……あ、あれは?」


「ん?」


 入り口に飛び出そうとしていた俺たち。

 だがそんな時、洞窟の中から一組の男女が表へと出て来る。


 一人は普通の男性。

 もう一人は、派手めな女性であった。


「あれ、町の人じゃないですか? 他の人たちと様子が違います」


「だな……でももう一人は町の住人って感じはしないな。なんというか……セクシーすぎる」


「どんな場所にでもセクシーな人はいますよ!? セクシーなんて、町の住人か悪い人かなんて判断基準になりませんよね?」


「でも……だいたいああいう女は悪人って相場は決まってるでしょ。ああいう女が裏から人を操ってるなんて物語もあるしさ」


「偏見すぎませんか?」


「それに、ちょっと余裕がありすぎる」


 男の人は怯えている様子だが……女は変に余裕すぎる。

 こんな場所にいるというのに全く怯えているように見えない。

 普通の女性なら、あの男の人のように怯えるところのはずだ。


「そもそもさ、あの男の人も、なんで洞窟から出てこれたんだろうな?」


「さぁ……何かしらの理由があるんでしょうね」


「じゃあ、その理由を確かめに行くとするか」


 俺はミューズと共に、彼らを尾行することにした。

 出来る限り気配を消し、バレないように隠密行動。

 こういうのは得意ではないけど、でも相手は俺たちに気づいていない様子。

 ホッとため息をついて彼らの後を付けて行く。


 すると二人はヴァイアントに足を踏み入れ、そして男性が何かを探すように周囲を見渡していた。


 ミューズに頷くと、彼女も同じように頷き返す。

 そして俺たちは彼らのバレないように、グルリと回り、二人の前に出る。


「何かお探しですか?」


「……あなたたちは?」


「俺たち? 俺たちはしがないただの町の住人です。ええ」


 ヘラヘラ笑う俺。

 ミューズは緊張しているのか、引きつった笑みを浮かべる。


 男の人は俺をジッと見つめ、そして口を開き出した。


「き、君たち、仕事に興味はないかい? それなりに稼げる仕事があってさ……」


「仕事ですかい? へえ、それはどんな仕事で?」


「それは……」


「荷物を運んでほしいのよ。森を抜けた先に私たちの仕事仲間がいてね……でも、最近この森は物騒だって言うじゃない?」


「ああなるほど。そういうことでしたら、俺たちもお手伝いするとしましょう。逃げ足には自信があるので、悪い連中が現れても逃げきれるでしょうしね。あ、物騒な奴が現れたら、逃げてもいいんですよね?」


「ええ、もちろん。逃げきれたらの話だけど」


「なら大丈夫でさぁ! そうと決まれば、さっさと向かいやしょうか!」


 女が獲物を見つけたような、狡猾な笑みを浮かべたのを俺は見逃さなかった。

 悪い奴だとは分かっていたが、やはり何か企んでいるようだな。

 だがお前らの思い通りにいかせない。

 俺たちがお前らを壊滅させてやるからな!

 絶対にだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る