ページ8 やるじゃん
二週間後
テストも終わり、いよいよ体育祭に向けて本格的に練習が開始した。正直、僕は綱引きの練習をしたいのだがリレーメンバーに強引に引っ張られ、無理やり参加させられた。
クラス的にも対抗リレーには力を入れていて、期待も大きい。だからこそ絶対に出たくないし、メンバーには最高のコンディションで望んでほしいのだ。
「じゃあ、まずは正規のメンバーでバトン練習しよっか。」
メンバーは実際に走る順番に並び、バトン練習をし始めた。
一走目がスタートすると二走目の選手が準備をして一走目の選手を目で追う。一走が近づくと二走が助走をつけ始める。バトンパスを終え、二走が走っていった。そして三走、四走、五走とバトンが繋がり、いよいよバトンは道義に。バトンをもらった道義は風の中を駆け抜けていった。道義の50m走の自己ベストは6.37秒とかなり速い。クラス対抗リレーは最後の種目で点数が50点ということもあり、各クラスがここぞとばかりに気合いをいれてくる。
ゴールでタイムを聞いた。1分16秒だった。
「なかなかのタイムじゃないか?。」
「よし今度は補欠メンバーを入れてやってみよう。」
いよいよ補欠メンバー投入の時間がやって来た。絶対にタイムが遅くなる。
「ミッキーは二走をお願いね。」
道義はそう言って謙介の肩をポンッと叩くと自分の持ち場に戻っていった。
「いや、どこに入れてもタイムが遅くなるだけだよ。」
道義に抵抗するがあいつは走りながら背中越しに軽く手を振って行ってしまった。
「大丈夫だってミッキー。」
「お試しだからあんまり気張んな。」
他のメンバーはそう言ってくれるが僕は僕なりにプレッシャーを感じていることをわかってほしい。
すると謙介は競技練習そっちのけでこっちを見ている紗倉を発見した。
『うわぁ、紗倉さんがこっち見てる。』
そう思うだけで緊張してくる。
「おいミッキー、急いで移動しろよ。」
「あっ、ごめん。今、行く。」
こんなところでカッコ悪い所を見せる訳にはいかない。謙介の体には力が入った。
「行くよ。よーいドン!」
合図と同時に一走がスタートした。謙介は走っている姿を目で追い、助走を始めるタイミングを伺う。
だんだん近づいてきた。距離は15m、謙介は助走をし始めた。
「はい!」
バトンパスはうまくいき、謙介は助走したそのままの勢いで三走目に向かって全速力で走った。頭の中は紗倉に見られているということでいっぱいだ。
もっと速く、もっと足を回転させて歩幅を大きく踏み込め。
テレビでやっていた速く走るコツを思い出してとにかく全力で走った。もうすぐバトンパスだ、三走目が助走を始めた。謙介はできるだけ離されないように更にスピードを上げた。
「はい!」
バトンを右手から左手に持ち変え、三走に渡した。バトンパスがうまくいった。
その後もバトンは繋がり、道義に渡りゴール。タイムを聞いて驚いた。
「1分09秒。さっきより7秒速くなった。」
スタメンのタイムと謙介が入ったタイムで7秒も速くなった理屈がわからない。
「ミッキー、やるじゃん。」
「なんだ意外と速いんじゃないか。」
なんだ、何が変わった?。謙介には全くわからなかった。足は速くないのに今、この瞬間だけは速かった。なんでだ?。
謙介はその疑問の答えをすぐに見つけた。
『そうか。紗倉さんが見てるって意識したからだ。』
きっとそうに違いない。紗倉さんに見られているってだけでこんなにも頑張れるのかと謙介にとっては新たな発見だった。今までこんなことはなかった。
「よし、これでもし誰かがだめになっても優勝間違いなしだな。」
スタメンはガッツポーズや拍手をして喜んだ。僕的には誰一人欠けて欲しくないんだけれどな。
「あとはあいつ次第だな。」
道義が不安げに語ったその「あいつ」とは?
「あいつって誰のこと?。」
「3年J組のアンカーにとんでもねぇバケモンがいるんだよ。」
「とんでもねぇバケモンって?。」
正直最近やっとクラスのみんなの名前を覚えたばかりだから他のクラスのことなんか知ったこっちゃねぇというのが謙介の本音だ。
「
「それってつい最近まで現役選手だったってこと?。」
『そんなの絶対に勝つに決まっているだろ』と心の中でツッコむ。
「で、そいつと戦うのが道義。」
謙介は急に不安になってきた。R組が誇る精鋭たちがいるから大丈夫だと侮っていた。
「まぁでも、練習あるのみ。みんな頑張るぞ。」
こうして体育祭までの残り二週間、綱引きを一切せずにリレー練習に明け暮れた。
体育祭 当日
「これより東京都立真堂大学付属城ヶ峰学園体育祭を始める。」
照りつける太陽とどこまでも広がる青空、そして吹奏楽部による演奏が戦う意欲を掻き立てる。
さぁ、いざ尋常に勝負。
―To Be Continues―
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