ページ14 二日目 運命の出会い

 夏休みに二泊三日の沖縄旅行に訪れた謙介達。ホテルに到着し、それぞれの部屋に入ると道義が謙介の部屋を訪れる。道義は今まで誰にも言えなかった過去や自分の気持ちを謙介に告白。謙介の言葉を受け、自分の気持ちと素直に向き合うことを心に決めた道義。二人はさらに絆を深めるとディナーへと向かって行った。

 

 

 

 それぞれの部屋を出た二人はVIPルーム専用エレベーターで二十二階にあるレストランへと向かった。二十二階に到着してエレベーターの扉が開く。エレベーターを降りて左に曲がるとレストランの受付の前で三人が待っていた。三人はそれぞれタキシードやドレスを身に纏い、高級感溢れる服装をしていた。


「遅いよ二人共、遅刻だよ。」


 待ちくたびれた顔で腕組みをしながら瑞帆が愚痴を溢す。


「あー、ごめんごめん。普段こんな格好しないから手こずっちゃって。」


 そう言いながら謙介は曲がったネクタイを締め直す。


「まぁまぁ、ちょっとくらい良いじゃねぇかよ。」


 すると充が謙介と道義のタキシード姿を見て呟く。


「三々樹氏も道義もとても似合ってるではないか。」


 そう言われた謙介は下を向いて自分の格好を確認すると照れ隠しを見せる。


「では、行きましょうか。」


 紗倉がそう言うと五人はレストランの中に入って行った。中はシャンデリアが輝いており、窓からは夜の海に映る満月が伺える幻想的な夜景が広がっていた。更にピアノの生演奏が行われており、大人のムードが漂っていた。謙介達はコース料理を楽しんだ後、各自の部屋に戻って眠りについた。

 

 



 夜が明け、一日の始まりを告げる朝日が沖縄の海を照らし水が神々しさを増す。その光は謙介達が泊まるホテルにも反射し、閉めていた部屋のカーテンから木漏れ日が指していた。


 時刻は午前八時半過ぎ、朝食を堪能した一行。沖縄旅行二日目となるこの日は自由行動。各自行きたい場所へと向かう。


紗倉と瑞帆は大型ショッピングモールでお買い物、謙介と道義と充は散歩しながらホテル近辺を散策することになった。


午前九時を少し過ぎた頃、自動ドアを抜けるとエントランスには黒瀬が車を止めて待っていた。


「皆様、おはようございます。本日はどうなさいますか? お嬢様。」


「今日は自由行動にします。私とみっちゃんはショッピングを、道義君と充君と謙介君は街を散策して回るそうです。昼食は各自で頂くことにします。」


「かしこまりました。」


 そう言うと黒瀬は車の後部座席のドアを開ける。紗倉は瑞帆の顔を見ると先に乗るように手で促す。アイコンタクトを取った瑞帆は「じゃあ、お先に」と言わんばかりにペコリとお辞儀をして車に乗る。紗倉も乗ると黒瀬がドアを締め、謙介達に一礼をして反対側の運転席へと乗り、車はそのままホテルを出て行った。


「じゃあ、俺達も行くか。」


 車を見送った謙介達もホテルをあとにする。三人は街中に向かって歩みを進める。ホテルから少し行くとすぐにサトウキビ畑が広がっている。


「すごいね、サトウキビ畑。初めて見たよ。」


 一面サトウキビ畑の光景に呆気を取られる謙介。


「あれ、確か三々樹氏は前に沖縄に住んでいたことがあったんじゃなかったか。」


「あぁ、うん。二年間住んでたよ。」


「そのときに観光とかしなかったの?」


 謙介は少しの間沈黙を続けた。そしておもむろに口を開く。


「あのときは初めての転校だったから周りに馴染もうと必死でそんな余裕無かったんだ。」


 そう言う謙介の顔は少し寂しそうだった。道義と充は互いの顔を見合った後、謙介の背中を思いっきり叩いた。謙介は思わず『痛っ』と溢し背中を押さえる。


「そんな顔すんなよ。この旅行でたくさん思い出作ろうぜ。」


「その通りだ。今、この瞬間を楽しもうぞい。」


 二人の励ましの言葉に謙介の顔に笑顔が戻る。幼い頃から転校を繰り返して来た謙介はある日を境に『どうせ転校するんだから』という考え方から他人と距離を置き、知人以上友達未満の関係を築くようになっていた。だが紗倉達と出会って考え方が変わった。


という大切な存在に気が付いた今の謙介には人との壁がなくなった。こうなる事は三月までの彼にも想像出来なかった。ここ数ヶ月で彼の中の何かが変わった。


「うん、ありがとう。」


 謙介は自分にとって大切な人がいることを噛み締めながら歩みを進めた。

 

 

 

 ホテルを出て三十分程が経ち、街中にやって来た。三人は服屋に入り、お揃いのアロハシャツを購入。さらに道義と充で謙介のコーディネートを行った。


沖縄旅行二日目、皆が心の底で思ってはいたが口に出来なかったこと。それは謙介の私服がダサいこと。どのくらいダサいかと言うと読者の皆さんがダサいと思う格好の二倍くらいダサい。


だが「謙介の服、ダサいね」なんて言える訳もなく、瑞帆が服選びのセンスが良い二人にコーディネートをお願いしたと言うわけだ。


二人で試行錯誤すること十五分。納得のいく物を買うことができた三人は店を出た。皆、両手に袋を持っているがほとんどは謙介の服。


「ちょっと買いすぎじゃない?」


 両手に持った袋を持ち上げ謙介は嘆く。


「良いの良いの、せっかくなんだし。」


 謙介に本来の目的を悟られぬようにうまく誤魔化す道義。


「なっ、もうこんな時間か。そろそろお昼にしないか。」


 充が左腕に付けた腕時計の時間を見ると時刻は十二時半を過ぎていた。


「そうだな。どっか近くで食べよう。」


 お昼を食べに行こうとしたそのとき「キャー」という黄色い声援が聞こえてきた。声のする方を向くとそこには人だまりができていた。男女問わず数十人は確認できる。


「あれ、なんだろう?」


「行ってみようぜ。」


 三人も人が集まっている場所に向かうことにした。人混みのなかを掻き分けて前列付近に到着すると大勢のスタッフやカメラマンが何かの撮影をしていた。その視線の先にいた人物を見て人が集まっている理由が分かった。


「あれもしかして永濱馨じゃね。」


道義の言葉に充が反応する。


「な、なんとあの永濱馨本人。」


 興奮する二人を横目に謙介はきょとんとする。


「ねぇ、誰あの人。」


 その質問に二人は即座に反応し、謙介の両肩を掴む。


「知らないのか謙介。永濱馨は女優やモデルで活躍し、話題の作品に数多く出演している今話題の若手俳優。」


「品のある顔立ちと完璧過ぎるスタイルで十代や二十代から絶大な人気を誇る知らない人はいない女優ぜよ。」


 二人の熱量に謙介は「へ、へぇー・・。」と返すしか他なかった。


「まぁでも、有名になったのは最近だし謙介が分からないのも無理はないか。」


 そう言っている間にどうやら撮影は休憩に入ったらしい。日除けのパラソルの下の椅子に向かう馨はふと謙介と目が合うと黙ってそこに突っ立ったまま動かなかった。少し固まってから動き出したかと思いきや謙介に向かって一直線に歩いてきた。そして謙介の両手を掴み、こう言った。


「もしかしてケンちゃん?」


 謙介はその場できょとんとしたまま動かなかった。


「やっぱりケンちゃんだ。」


 そう言うと馨は謙介に抱きついた。


「えー!」


謙介には何が起きたかわからなかった。

 

 




─To be continues─

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