ページ9 いざ決戦のときⅡ

「じゃあ、行ってらっしゃい。後で家族みんなで応援しに行くからね。」


来なくても良いって言ったのに全員来ることになっていた。謙介は靴紐をいつも以上に引き締めて気合を入れた。


「よし、行ってきます。」




体育祭 当日


 開会式を行うためにグラウンドに全校生徒が集まった。ざわざわとしてる中、前方に見える台に充が登っている。充の姿が見えると全校生徒は一斉に前を向き、静かになった。さすが生徒会長、貫禄がある。


「これより東京都立真堂大学付属城ヶ峰学園体育祭を始める。」


充の開会宣言は空高くどこまでも響き渡った。照りつける太陽とどこまでも広がる青空、そして吹奏楽部による演奏が戦う意欲を掻き立てる。謙介にとっては初めてだけどみんなにとっては最後の体育祭。他のみんなの目の奥には闘志の炎が燃えたぎっていたように見えた。


「それでは校長先生から一言挨拶を頂きたいと思います。」


アナウンスの後、校長は登壇した。一言と言いながらそれから10分以上も話した。謙介は常々思う、なぜ偉い人達の話はいつも長いのだろうと。


そんなこんなで開会式が終わり、いよいよ競技が始まろうとしている。最初の競技は100m走、道義を始めとしたリレーメンバーがエントリーしている。


ところで皆さんは一学年18クラス三学年の体育祭がどのようにして行われるか想像が付きますか?


競技は学園に隣接した3つの建物で学年別行われる。その総面積は東京ドーム6個分もの広さ。開会式と閉会式は謙介達三年生が競技を行う建物で執り行われるのだ。




100m走


 「バン」という合図と共に女子の1組目がスタートした。フィールド内にいる他の生徒達が応援をしている。道義は男子最後の組、噂によるとあのJ組の怪物もエントリーしているらしい。謙介はその間、リレーに出場する他のクラスの選手のリサーチを頼まれた。100m走は各クラスのスピードスターが軒を連ねる絶好のリサーチポイントなのだ。すると後ろから誰かが謙介の肩を叩いた。


「ミッキーなにしてんの?。」


肩を叩いたのは瑞帆だった。瑞帆はポニーテールにハチマキをリボン結びして可愛く着飾っている。クラTを半ズボンの中に入れているからか胸元が強調されていて自然とそっちに目線が行く。


「どうしたの?。」


一瞬ボーッとしてしまい、正気を失っていた謙介。


「あっ、いや、なんでもない。他のクラスのリサーチをしてるんだよ。」


「リレーメンバーのために?。」


謙介は頷いた。補欠とは言え、補欠なりにできることをやろうと決めた。そんな話をしていると男子の部になった。道義の番まで各クラスのリレーメンバーが名を連ねる。


刻一刻と道義の順番が迫ってくる。どの組も接戦ばかりでハイレベルな戦いが続いている。そしていよいよ道義がいる男子の部最後の組の登場だ。


「道義、頑張れー。」


「道義、ファイトー。」


謙介達は声援を送った。すると後ろから走ってくる音が聞こえてきた。


「はぁ、はぁ、あー良かった、間に合った。」


それは紗倉だった。どこから走ってきたのか息切れをしていた。謙介は再びトラックの方へ視線を向けた。すると瑞帆が驚いた様子で謙介の肩を叩きまくった。


「ねぇ、あれってもしかして。」


瑞帆にそう言われるがまま人混みの隙間から見えたのは


「なんであいつが同じ組なんだよ。」


そう道義と同じ組にいたのはあの怪物、左藤托季だった。


「あの一番端にいる人ってこの間みんなが言ってた人だよね。」


「まさかここで直接対決するなんて。」


謙介は迷っていた。道義の応援もしたいけどあの人のリサーチもしたい。そんなことを考えている間にゴール付近の先生がスターターに向けて合図を送った。


「on your marks set。」


レーンにいる選手全員がクラウチングスタートの態勢をとる。


「バン」と鳴った瞬間一斉に走り出した。先に飛び出したのは道義、スタートに成功したそのままの勢いで走り抜けていく。謙介達は必死で道義を応援した。


「頑張れ道義ー。」


「そのままイケるよー。」


しかし30mを過ぎた辺りで道義の先を行く者がいた。左藤托季だ。彼はどんどん加速していき、そのままトップスピードへ。彼は勢いそのままに誰も寄せ付けないまま1着でゴールした。少し遅れて道義も2着でゴール。


謙介は唖然とした、想像を遥かに超える速さだった。まるで世界陸上の100m決勝を見ているかのようだった。

ゴールした道義に托季が近づいてきた。


「いやー道義君お疲れ。今年も2位止まりで残念だったね。」


わざわざ嫌味を言いに来たのだ。道義はムカつきながらも何も言い返せなかった。


「まだ対抗リレーがある。今年こそ絶対に勝つ。」


「余程の自信があると言うわけだ。それはとても楽しみだ。」


そう言って托季は道義の肩をポンッと叩いて去っていった。道義は自分の拳を強く握りしめた。そして天を仰ぎ、心に勝利を誓った。


これも天の気まぐれなのか。まさかこの後、道義にあんな悲劇が降りかかるなんてこのとき僕達は思いもしなかった。




―To Be Continues―


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