ページ4 疫病女神の力

 高校最後の年に天才たちが集まる城ヶ峰学園に転校してきた三々樹謙介。個性豊かで優しいクラスメイト。隣は学園一の国宝級美女、伊ヶ崎紗倉さん。僕はこれまでにないくらい充実した学校生活を送っていた。ところが、現生徒会長の仙巌道寺君の推薦で生徒会選挙に出馬する羽目になった僕。応援演説をしてくれる人を探していると名乗りを上げてくれたのは紗倉さんだった。




「はい、私謙介君の相棒やります。」


そう言って勢いよく手を上げた紗倉。紗倉の突然の挙手に一同騒然とした。


「伊ヶ崎さん、それどういう意味?。」


道義が紗倉に問いかける。


「そのまんまの意味ですよ道義くん。私、僭越ながら謙介くんの応援演説をしたいなと思いまして。」


「謙介君、ぜひ私をあなたの相棒にさせてはくれないでしょうか。」


謙介はものすごく悩んだ。勝つつもりがない選挙で紗倉という超強力な武器を味方につけてしまったらそれはもう当選確実なのではないだろうかと。


「謙介君、私では力不足ですか?。」


「いやだめってわけじゃないんだけど…。」


「だけど?。」


困ったな、なんて言い訳すれば紗倉さんは引き下がってくれるだろうか。


「ほら僕まだ来たばかりだし、僕のことよく知らないじゃん。だから、その…。」


謙介の曖昧な言い訳に充と道義がすかさずフォローする。


「確かに三々樹氏は来たばかりで誰も彼について知っているものはいない。」


「応援演説ってその人の良い所や特徴を有権者達にアピールする役目だからな。そこがわかんないんじゃ応援の仕様がないな。」


『仙巌道寺君、道義君ナイスフォロー。今、この瞬間だけ君たちを神様と呼ぼう。』


「そうだよ、二人の言う通りだよ。」


「でもそれは皆さんだって同じでしょ。」


それまで謙介のフォローが飛び交っていた場の空気がその一言で静まり返った。


「それにあと三週間もあるし、それまでに謙介君の良い所いっっぱい見つけて見せますから、ね。」


最後はかなり強引に持っていかれた。


「じゃあ、謙介君からの了承も得たことですし、今日から三週間全力で謙介君を応援いたしますね。」


返す言葉が見つからなかった。いや、言葉を返すことすらできなかった。


「良いね盛り上がって来ました。」


勝手に盛り上がってるのはそちらさんですけどね。


「うむ、三々樹氏&伊ヶ崎氏vs俺&西條氏。とてもおもしろい戦いになりそうだ。」


というわけで勝手に話が進み、勝手に対決が始まってしまいました。




 紗倉が謙介の相棒になってから一週間が経った。謙介達は選挙用の襷と大弾幕を作り、選挙活動を開始した。選挙までの二週間、学園の校門で襷を掛けながら挨拶運動をしたり、各教室を周り生徒達にアピールしたりやることが山積みなのだ。特に教室周りは一学年18クラス×3学年の54クラス周らないといけないのでもう大変。さすが二回も経験している充&道義ペアは仕事が早く説得力がある演説をしている。


一方謙介達のペアはポスター作りやビラ配りがまだ終わっていない。選挙当日の演説内容も決めてないし、紗倉の応援演説はというと


「えーっと謙介君は優しくて他人に優しくて真面目で物知りで、とにかく生徒会長にピッタリだと思うんです。だからどうか謙介君に清き一票よろしくおねがいします。」


これを全クラスで言っているのだ。いくらなんでも薄すぎるだろ。

しかし、謙介はこの時まだ知らなかった。紗倉の発言力の強さを、紗倉が謙介にとってとんだ疫病女神だと言うことを。謙介はこのことをもうすぐ知ることになる。


― 一週間後 ―


 選挙一週間前になると現時点での支持率を開票する決選前支持率が掲示された。

その支持率にびっくり、謙介の支持率が86%で充の支持率が14%だったのだ。一体彼女はどんなことをしたのか、どんなことをすれば無敗の充と70%以上の大差をつける事ができるのか。謙介はいろんなことを考えた。賄賂を渡したのではないかとか、男共に媚を売って謙介を支持するように促したのではないかとか。でもそんな考えはこの一言で片付けられる。


これが彼女の力なのだ。


その日の放課後、謙介と紗倉は同じ帰り道を歩いていた。選挙の期間はなるべく一緒に帰るように紗倉に言いつけられている。帰っている途中で謙介についての質問をされる。まぁ、それがこの上ない苦痛なのだが。


「ねえ、謙介君。選挙まであと一週間ですね。」


「は、はぁーそうですね。」


どうしたんだいきなりそんな話の始め方は。


「ねぇ、今日私の自宅へ来ませんか?。」




―To Be Continues―

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