ページ12 お泊り
瑞帆の提案で夏休みに二泊三日のお泊り旅行に行くことになった謙介達。旅行の舞台は沖縄、空港に着くや否や紗倉の使用人が運転するリムジンが謙介達をお出迎え。海水浴場に着き、着替えを済ませて女子たちを待っているとそこに現れたのは…
「さっ、紗倉さん?」
謙介は後ろを振り返って驚愕した。こちらに向かって砂浜を駆け抜けているのは白のヒラヒラが付いたビキニを着た紗倉だったのだ。
「ごめんなさい、お待たせしてしまって。」
そう一言謝罪を挟んだ紗倉だったがあまりの神々しさに呆気を取られている三人はそれどころではなかった。
「あっ、ぜっ、全然待ってないから大丈夫だよ。」
我に返った謙介は言葉を詰まらせながらも返事を返した。紗倉と一緒に来ていた瑞帆が鼻の下を伸ばしまくっていた謙介達の様子を見てムッとした顔をした。
「ちょっとあんたたち、あたしも居るんだけど!。」
瑞帆に目を向けると仁王立ちしながら謙介達を睨み付けていた。彼女は何かを訴えるかのような目で見ていた。
「み、瑞帆も可愛いね。その花柄のビキニ、とっても似合ってる。」
空気を察した謙介は瑞帆についても触れるが、彼女の機嫌は直らなかった。その時、充が手を叩いて皆の注目を集めた。
「よし、全員揃ったことだし皆で騒ぎまくろうではないか。」
空気を察した充の号令で謙介達は再び水遊びを始めた。ムッとしていた瑞帆も紗倉に連れられ合流してきた。謙介達はビーチバレー、スイカ割りなど夏らしい遊びを堪能した。
一時間後、一通り遊び尽くした謙介はパラソルで日陰になったレジャーシートで休むことにした。すると紗倉がこちらに向かって来た。
「お隣、よろしいですか?」
「あっ、うん、どうぞ。」
紗倉は謙介の隣に座った。いつも学校で隣通しなのに今、この瞬間も胸がドキドキしている。
「皆、楽しそう。やっぱり来て良かったですね。」
そう呟いた紗倉の横顔は海ではしゃいでいる三人を微笑ましく思う母親のような表情をしていた。でも謙介にはどこか寂しさを隠しているようにも見えてしまった。
日が傾き始め、夕陽が海と空を紅く染めていった。謙介達は夕陽が沈んでいく様子を砂浜で並んで眺めていた。
しばらくすると使用人、黒瀬が運転するリムジンで今夜泊まるホテルへと向かった。ホテルに到着するとエントランスには10人程のスタッフが並んで待ち構えていたのだ。謙介達が車から降りるとスタッフ全員が一斉に頭を下げた。いきなりの出来事に謙介は驚き、少し後退りした。
「お待ちしておりました、お嬢様。当ホテル支配人の長嶺でございます。」
支配人が一歩前に出て紗倉に挨拶した。
「お出迎え御苦労様です。今回は私のお友達と一緒に御世話になります。」
「承知しております。皆様のご旅行がより良いものになるようスタッフ一同ご尽力致します。それではこちらへどうぞ。」
そう言うとスタッフは縦二列に並んで道を作った。謙介達は若干引き気味になりながらもその道を通って回転ドアを進みフロントへ向かった。
「いらっしゃいませ。」
フロント係の男性が受付を担当してくれた。ピシッとしたスーツ姿に髪型もきっちりされている。
「予約した伊ヶ崎です。」
「伊ヶ崎様、いつもご利用ありがとうございます。」
名前を確認すると情報をパソコンに打ち込む。そのフロント係は紗倉にも動じずに応対している。だが、パソコンを打つその手が少し震えているようにも見えた。
「伊ヶ崎様、此方がお部屋のルームキーになります。」
フロント係が五人分のルームキーを紗倉に渡した。受け取った紗倉は軽くお辞儀をした。
「ごゆっくりとお寛ぎくださいませ。」
フロント係の男性はそう言って深く頭を下げた。
「皆さん、最上階の個室を予約しました。みっちゃんは0001号室、道義君は0003号室、充君は0004号室、そして謙介君は0005号室ですね。」
そう言うと紗倉は四人にそれぞれの部屋のルームキーを渡した。
「それでは参りましょうか。」
謙介達はフロント横にあるエレベーターで最上階へと向かった。
謙介達が宿泊する『伊ヶ崎リゾート・宮古島』は地上三十階建ての海岸沿いに聳え立つホテル。2019年に5つ星ホテルに認定され、上質な寛ぎ空間と全室、朝日又は夕陽と海のコラボレーションが楽しめる構造が人気を博し、また行きたいホテルランキング'21で一位を獲得。更に最上階にある8つのVIPルームは全てにおいて最高級品を使用しており、世界各国から著名人が足繁く通う。
エレベーターが最上階に到着した。
「それでは皆さん、ディナーは19:30からですのでお忘れなく。」
五人はエレベーターを降り、それぞれの部屋へと向かって行った。
ルームキーでロックを解除して扉を開けるとそこには広々とした空間が広がっていた。大きなシャンデリアに広いリビング、ふかふかのベット、高そうなソファー。ベランダの窓を開けると夜空に浮かぶ星が海に反射してキラキラと輝く幻想的な風景が広がっていた。今宵は満月、邪魔をする雲一つ無い星空だった。
謙介は興奮のあまりニヤニヤが止まらず、とりあえず一度はやってみたかったふかふかのベットにダイブした。ふっかふかの布団に包まれる至福の一時を過ごしていると部屋の隣からノック音が聞こえてきた。
「はい!」
謙介が扉を開けるとそこには道義が立っていた。
「悪い、謙介。ちょっと良いか?。」
~To be continued~
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